晴らそうとして、変遷推移する世代から、犠牲の座に据えられた第一人者を選んで、いつでも憑《よ》りつき乗りうつる。迢空さんはそういっているのである。
犠牲者はその時から献身者の地位に立たされねばならなかった。繭《まゆ》に籠っていた蛹《さなぎ》が蛾《が》と化《かわ》り、不随意に見えた世界を破って、随意自在の世界に出現する。考えてみればこの急激な変貌の畏《おそろ》しさがよく分る。受身であった過去は既に破り棄てられた。献身者は全く新たな目標を向うに見つけて未知の途《と》に上《のぼ》る。身心を挙げてすべてに当るより外はない。肉身といえばか弱い。心といっても掌《たなごころ》に握り得るものでもない。ただあるものは渇仰《かつごう》である。光明に眩《くら》まされた憧憬である。
現実に即して言えば、それは旧制度が停滞していたそのなかで諦めようにも諦められずに知性の発揚をいちはやく感じていたものの目覚めである。
家庭も社会もただ一色の淀《よど》みの底に沈んでいる。そういう環境の中で人々は相互に不安を抱いて語り合っていた。そして灰色に見える塗籠《ぬりご》の奥では、因襲は伝統の衣を纏《まと》って、ひそひそと
前へ
次へ
全232ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング