でもあったらしい。かれは家長風の権威をもっていた。それを謙虚な言葉に包んで、開発の精神を社会に及ぼそうとした。自然を生活するというのである。
かれには別様な一面があった。そこでは情意の発作的動揺が見られる。唐突な言動があの不断の平静な態度をかき乱すようなことがある。圧縮したものが急に反撥する。まずそんなものである。もちろんそれは些細《ささい》な事がらの上に起る。気がつかねばそれなりにすんでゆく。それというのもかれには執拗な観念が一つあった。それが狂念となって潜んでいるが、時としては表面にあらわれてかれを脅《おびやか》した。遺伝というものが心頭《しんとう》に絡《から》みついていて離れない。かれはそれを払いのけようとして一生を通じて苦しんでいたものと思われる。狂念をいだいていたところもルソオと相通ずる。そういう狂念の発作があのような間違いを起したといって好い。かれは『新生』においてその事を告白するとともに、極度の節制を護りつづけた。
藤村にくらべれば花袋は単純である。藤村のように解決のつかぬものを胸中に蔵してはいなかった。妓と酒とはいわば風流のすさびであろう。そういう境地に韜晦《とうか
前へ
次へ
全232ページ中211ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング