した。
 観覧料を払って、いざ本館へと石の階段を昇ろうとすると、足があがらない。やっとのことで館内に入った鶴見の面前に、いきなり等身大の仏像が立ち現われる。やれやれと思うひまもなかったのである。その仏像のひろげた腕があたかもかれを迎えて、かれの来るのを予期してでもいたように見える。鎌倉期の阿弥陀如来の座像である。それにしても例の中性的な弱々しい表情もなく、そんなマンネリズムから遠く離れて、しっかりした顔面や四肢の肉附けが男性的であるところなど、見る人の目を牽《ひ》き、精神を新にさせずにはおかないという風格がある。鶴見はおもわず身づくろいをした。体のどこか急所に石鍼《いしばり》をかけられたような感じに打たれたからである。
 こういう阿弥陀像はこの外にも二、三あったが、それとは様式の変った如来の立像が一体ある。それがまた鶴見を感動させた。物々しくはないが特殊な製作ぶりを示している。浄明寺《じょうみょうじ》の出陳である。舟型光背《ふながたこうはい》につつまれた、明快で優に妙《たえ》なる御姿である。技巧は極めて繊細であるが、よく味ってみれば作者の弛《ゆる》みなき神経が仏像を一貫して、活きて顫動
前へ 次へ
全232ページ中199ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング