書き添えてあった。はかないことである。鶴見はこうして、とうとう本山《ほんざん》から貰ってきたという、比丘尼の称号をすら知らずにすごしてしまった。かれはこんなことのあるたびに、性分とはいいながら、普通の人情に欠けたところのあるのを反省するのである。
鶴見はまた考えた。女の身の上ほど変化極りないものはない。自分などはやっとこれからというとき、女は既に人生の複雑な径路をたどって、最期《さいご》の苦悩まで嘗《な》め尽《つく》して、しかも孤独のまま死んでゆくのである。かれはそう考えながら、謎めいた女の一生をひそかに気味わるくも感じているのである。
鶴見が小倉で女に別れてきてから、幾年かは比較的に無事に過ぎた。その平康のなかからまた新たな性慾の経験がはじまって、かれは忘れ得ぬ苦しみを身を以て苦しみぬいた。かれはここに至って、その回想が一倍の冷静さを要求することを知った。身を以て苦しみぬいたという外に回想すべき何物をもそこに窺《うかが》えないからである。如法《にょほう》の黒闇《こくあん》がすべてを領していた。経過した一々の事象も内心に何らの写象をもとどめていない。殆ど空無であるその心理状態を強
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