鶴見は語りやめたが、その談義が果して終ったものかどうか、それさえよくは分らなかった。そこで老刀自は分ったような、分らぬような顔をしている。
 鶴見にしてみても、ここまで来て何か拍子抜けがしたようで収まりがつかない。そう思って結末の文句を探している様子であったが、ふと探しあてたと見えて、かれは改めてこういった。
「まあ、こんなことになるのだろう。今日のこの事に当はめていうと、雪間の草の春は老木の梅の春だね。そっくりそうなるよ。」かれはいい終って愉快そうにからからと笑う。
 老刀自はまたはぐらかされるのかと思ったが、鶴見が余り心持よさそうなのを見て、わざとらしくなく共笑いをしている。

 鶴見が止めどなく長談議をつぶやいていたうちに、娘の静代は梅の枝を剪《き》って来て、しばらく弄《もてあそ》んでいて、話の終るのを待ち構えていた。言いつけられた小品の花は、もうとっくに活け上げているのである。
 花器といっても今ではまるでないも同様である。ただ一つ、焼けた灰のなかから掘り出して来た朝鮮三島の瓢形《ひさごがた》の徳利が残っている。少し疵《きず》はついたがまだ使われるのを惜しんでここまで持って来て
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