る。須藤も好箇の若者であるが惜しいことには体が弱い。鶴見はそう思ってあたりを見まわした。
 室内は適度に保温されて、床脇《とこわき》の違い棚の上に華奢《きゃしゃ》な鶯の籠が載せてある。鶴見にはそれがこの室《へや》の表象ででもあるように目立って見えた。鶯は籠の中を時計の振子のようにあちこちと動いている。
「鶯は鳴きますか。」鶯は動いてはいたが鳴きはしなかった。それにひかされて、ついこんな間の抜けた口をきいたが、それが愚問であるのに、すぐ気が附きはしたものの弁解がましいことはしたくなかった。友人は寂しく笑った。
 須藤は背は高かったがひどく痩せぎすなたちで、前歯が虫に食われて味噌歯《みそっぱ》になっている。
 その味噌歯がこの男の面貌に愛敬を添えていた。それでも寂しく笑った時に、鶴見はそこに若者らしくない窶《やつ》れを見て取った。
 鶯によい鳴きぐせをつけるにはその方法がいろいろある。その躾《しつけ》かたについての話を一わたりきかされた。「何につけても修行が大切だね。」鶴見はそういおうとして、遂にその言葉を口に出さずにしまった。
 鶯の修行の話を長閑《のどか》にして、こうやって静かに寝てい
前へ 次へ
全232ページ中176ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング