思われぬからである。多分に作者の特異な個性と空想とが全画面に混り合い、融け合っている。印象は重んずるが、その表現は物象に直接ではなくて、幻想のるつぼを通して来たものである。真の意味における創作である。
 海の水平線は画幀《がとう》の上部を狭く劃《かぎ》って、青灰色の天空が風に流れている。そこには島山《しまやま》の噴煙が靡《なび》き、雲が這《は》っている。地理的にいえばこの島山はこの絵を描いた位置からは少しわきにはずれているのであるが、青木はそれを知りつつも、ことさらに画の正面に移して据えた。青木の心眼にはそう見えるのである。この島山は伊豆の大島である。
 その天空の帯の下に、これも左に細く右へややひろがった青緑の海が動いている。ところどころに波頭《なみがしら》がたつ。その海が前方に迫るに従って海中の岩礁《がんしょう》に砕けてしぶきをあげる。更に前景には大きな岩礁が横たわり突き出ている。その間を潮流が湍津瀬《たぎつせ》をなして沸きあがり崩れ落ちる。岩礁には真夏の強い日光が反射する。紫褐色の地にめった無性《むしょう》に打たれた赤い斑点がちかちかと光ったり唸《うな》ったりしている。青木はこれ
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