である。取ったとんぼは鈴虫のように好い音を聞かせるでもない。ただそれだけのなぐさみに過ぎなかったが、それでも籠に入れ持って歩いた。子供仲間でとんぼ草と呼んでいたものが、乾いた溝の縁なんどに生えている。紫褐色の肉の厚い葉を平たく伸している雑草である。※[#「くさかんむり/見」、第3水準1−90−89]《ひゆ》の種類でもあろうか。その草を摘《つ》んで籠の中のとんぼにやったりする。果してとんぼがその草の葉を食べるものか、それはどうでも好かった。ただそういうことをするのが、何というわけもなしに、面白かったのである。
しかるに昨年の秋になって、転出先から疲れ切った翼を休めにもとの古巣に戻って来て、さて今年の夏になって見ると、裏庭を畑におこしたそのあとの土に、この久しく忘れていたとんぼ草が一面にはびこり出したのを発見した。それを見ると、幼時の日常が思い出されるといって、鶴見はつくづくと懐かしがっているのである。
幼年期のこうした回想もいよいよとんぼ釣で終末を告げる。鶴見は中学に入って急に大人びて来たからである。世間もそれと同時にめまぐるしく変っていった。二十二年、二十三年には憲法が発布され、議
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