筆が挿してある外にペン軸が交《まじ》って見える。その横にインキ壺が備えつけてある。朝日が射し込むとそのペン先が忽《たちま》ち金色に輝き出す。インキ壺の切子《きりこ》の角が閃光を放つ。机上の左の方には二、三冊の洋書が無造作《むぞうさ》に置いてある。簡素で、たったそれだけの道具立てであるが、鶴見は朝々それらを目にするたびに、そこにどうやら身に迫ってくる時代の新鮮味をおぼえるのである。
この部屋の主人公である若い未亡人はカトリックの尼さんたちと懇意にしていたが、そのころ発展の気運に向っていた女子教養のためのミッションスクウルが、麹町|四《よ》ツ谷《や》見附《みつけ》内に開設せられ、西岡未亡人がその学校の校長に推されているというようなことなども段々知らされた。この未亡人が鶴見の結婚の仲介もし、その前年の日露戦役の終った年の暮には、あわただしく病に倒れた鶴見の老父の葬儀にも彼は格別の世話を受けた。このたびの戦時中、八十幾歳で亡くなったが、鶴見は父の死後少しも変らずに長く附き合っていたのはこの夫人だけである。
鶴見はこんなことを思っている。――西岡夫人は実際特異の存在であった。時代を識《し》
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