福岡)、よく自然的に、はた歴史的に、現今の地位を占めえたる――かくのごとき進歩はこの地に見るあたはざりき。外国との交通により、窯業《えうげふ》の発達せしことは一たび伊万里の名声をあげしめたりき、豊太閤の「名護屋御滞陣」は、一時天下の耳目を聳動《しようどう》したりといへども、単にこれをその他の盛衰に観るも、なお唯豪華の夢に過ぎざりけり。
さもあらばあれ、松浦川といひ、玉島川といひ、領巾振山といひ、平戸といひ、名護屋といひ、伊万里といふその名はすでに世の人の耳に熟せり。地は筑紫のはてにありて、かばかりの注意をひきえしもの、豈ゆゑなしとせんや。今や、唐津に、佐世保に、新たに松浦の風気を揚げむとす、大に栄えむことは、或は地勢や阻まむ、しかも永く衰ふべからざるなり。
わが「松浦あがた」の記はまさに了《をは》るといへども、なほ私《ひそ》かに飽かぬここちの禁《とど》めがたきものあり、そは人の未だこの地に遊びて、爽快なる大気のうちに嘯きしことを聞くの少なきを悲むがために。
底本:「ふるさと文学館 第48巻 【佐賀】」ぎょうせい
1994(平成6)年7月15日初版発行
底本の親本:「現代紀行文学全集 南日本編」修道社
1960(昭和35)年
初出:「読売新聞」
1898(明治31)年6月6日〜10日、12日、13日
※冒頭の頼山陽の詩は、底本では「際」が「※[#月+祭]」になっており、なおかつ「※[#月+祭]」と「※[#「縢の糸に代えて土」]」の場所が入れ違っていましたが、近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp/)の「山陽詩鈔」(明治12年刊)を元に修正しました。
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
ファイル作成:
2005年1月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング