いはく

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たらし姫みふねはてけむ松浦のうみ
   妹がまつべき月にへにつつ
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と、その古《かみ》、神功皇后|韓国《からくに》をことむけたまひ、新羅の王が献りし貢の宝を積みのせたる八十艘の楫《かぢ》を連ねてこの海に浮べるを憶ひおこし、はしなくも離れ小島の秋かぜに荻の花の吹きちるを詠《なが》むる身は、朝廷《みかど》の大命の畏くて、故郷に残しおきつる妻子の今宵や指かがなへて帰るを待つらむなど、益荒武雄《ますらたけを》の心ながらも宛ら磯礁《いそいは》に砕くる白波に似たりけり。一首の三十一文字のむね洵《まこと》にかくのごときものあり。
 出でて裏浜《うらはま》(唐津町の)の真砂の上に※[#「彳+尚」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《しやうやう》の歩を移せば海上呼べば応へんとすばかりなる鳥島より右に後ろにさけて高島はその名のごとくそばだち、なほ遥かに左に偏《かたよ》りたるところに島の影の低《ひく》く見ゆるが、これぞ――かしは[#「かしは」に傍点](神集)島なり。万葉集に狛[#「狛」に傍点]島《しま》と書きたる、字
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