たるなり。ややあれば、瑠璃の艶あざやかなる朝顔の籬の下を走りくる童あり、呼びとどめ、所の名を問へば久保と答ふ。地図に就て案ずれば、ここより唐津に到るにはなほ三里を余す。前なる流は正しく松浦川の下流。
佐賀市を距る十数里、小城《をぎ》を通ぜる国道と会し、往方《ゆくて》は坦《たひら》かなること砥のごとく、しばらくにして牟田部《むたべ》をすぐ、ここも炭坑のあるところなり。松浦川もまた養母田《やもた》にて波多《はた》川の水と合し、夕日山の麓にそひ、幾多雅趣ある中洲をめぐり来り、満島《みつしま》の岸を洗ひ、舞鶴城の残趾を噛みて、つひに松浦潟に注ぐ。
二
満島は松浦川の口に構へられたる一|小寰区《せうくわんく》なれども商業活溌なり、唐津の旧城下とあひむかへて、共に益々《ます/\》発達の勢を示せり。唐津は望みある土地なり、これを伊万里に比するに、まづ天然の風気に於て優に幾十段の懸隔あるをおぼゆ。彼にありては牧島湾、浅く、狭く、且つ年々に埋りゆけば、おのづから船舶の出入に不便を感ぜざるをえず、僅かに魚塩の利を保つに過ぎざらむとす。これに代つて起つもの豈《あに》唐津にあらざらむや。
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