ろかみやま》の擅《ほしいまゝ》に奇趣を弄ぶあり、巉巌《ざんがん》むらがり立てるはこれ正に小耶馬渓《せうやばけい》。いにしへ大蛇あり、その箏《たかんな》のごとき巌に纏ふこと七巻半、鱗甲《りんかふ》風に揺《うご》き、朱を濺《そゝ》げる眼は天を睨む、時に鎮西八郎射てこれを殪《たふ》し、その脊骨数箇を馬に駄す、その馬重きに堪へず、嘶いて進まざりしところ、今に駒鳴峠《こまなきたうげ》の名を留めたり。
 黒髪山の近くに源を発するもの、有田川あり、伊万里川あり、松浦川あり、その流域は「松浦あがた」のうち最主要なる部に属す。有田川は西南に流れて皿山を過ぐ。ここははやくより、磁器の製造をもて、その名世に布《し》く。いはゆる有田焼の名産を出すところなり。維新の前、藩侯の通輦《つうれん》あるや、毎《つね》に磁土を途に布きて、その上に五彩を施せしといふ、また以て、窯業《えうげふ》の盛なるを想ふに足るべし。
 次に伊万里川は北に流れ、大河内の近くを過ぎ、伊万里町を貫き、有田川の末とおなじく、牧島湾に注ぐ。大川内は「御用焼」もて知られしところ、今はたゞ蕭条たる一部落の煙を剰すに過ぎず。伊万里町は殷賑《いんしん》な
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