ひ激し、あひ待ちて、この海岸に最正しき沙線を撓《たわ》めたるなり。潮の色や青く、砕くる波や白し、いさご明かなり、松みどりなり、加ふるに東雲《しののめ》のむらさきと、夕映のくれなゐとは、波を彩り、沙《いさご》にうつり、もろもろの麗はしき自然の配色は恣に変幻するがごときも、しかも斎《つつま》しくこれを渚の弧線の上に繋ぎて、いみじくも優しき調和を見せたり。想へば恵まれたるながめなるかな、ただ要時《しばし》、中空にかかりぬべき虹の橋は、やがて常住の影をここにあらはすがごとし、そのかがやく欄干《おばしま》に凭《よ》りて、わが霊魂《たましひ》は無限の歓喜を受けたりき。
 以太利《いたりや》の風光にあくがれし詩人、シェレエが「ピサに近きカシネの松ばら」と題してものしたる歌の中に就きて、回想せし楽しき逍遥の日は「なよ風松が枝に巣ごもり、荒波海ぞこに歛《をさま》れりし」なり、われ虹の松原に遊べる折やまたかくのごとかりき。
 背後に屏風を畳《たた》むは、これ領巾振山《ひれふりやま》――虹の松原の絶景をして平板ならざらしむるはこれあり、うち見るところ、造化の作の中にありて極めて拙劣なるもの、擲《なげう》つて
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