入るかたの空は黄金いろに燻りて名残の光のさまよへる、また匂はしき西風は一片の白雲を静かに漾《ただよ》はせたるよ。――詩人が愛づるを言ひしは、かかる折なりき。ながむるに卑しき念を脱し、塵の世のわづらひより避《のが》れ、理路の難《むづ》かしきを辿らで、暢《のびや》かなるこころは、たやすく自然の美もて装はれたる界《さかひ》の薫はしきあたりに到りうべく――ここに快楽の裡に包まれたる霊魂《たましひ》――燃ゆるがごとき胸に響く愛国のしらべ、――ミルトンの運命と、シドニイの最期《さいご》、――続いて歌ひけらく、「つひには彼等名士が面影をして、まのあたりに現ぜしめざれば飽かざらむとす。もし幾たびか、清き涙を揮ひつつ、歌のつばさもて天かけるそが姿をみかふる時しあれ、わが双の眼を封ぜむとするは|一種朗か《サムメロオヂヤス》なる|悲み《サロオ》にあらずや」と。
明麗なる夏の夕の感慨まことにかくのごとし。暢美の景に対して熱誠をもとめ、闊達の気象のうちに涙をふくむもの。古《いにしへ》、国のために力を尽しし歌人の思想を汲み運命を偲び、そが韻律の朽せぬにほひを慕ふにあたり、おのづからなる感情は、正に「ほがらかなる
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