狂言綺語
蒲原有明

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(例)[#地から1字上げ](昭和十三年十二月 書物展望社刊)
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 諸君子のひそみに倣つて爆彈のやうな詩を書いて見ようと思はぬでもない。も少し穩かなところで、民衆詩あたりでも惡くはなからうと思はぬでもない。さうは思ふが、さてどうにもならない。
 格にはまつた詩も、格にはづれた詩も、いづれにしても、わたくしには今作れない。わたくしは言葉の探究に夢中になつてゐて、詩の作れぬわけをそれに託けてゐる。とは云へ、その探究は言葉を科學的に冷靜にぢりぢりと押へつけて行つて、その効果を擧げようと企てゝゐるやうなものではない。それにはまた別に人がある。
 わたくしは夢を見てゐるに過ぎない。ただこの機運に際し、多年言葉の修練を唱へてきた餘力を驅つて、言葉の奧に蟠る祕義に參してみたいと思ふばかりなのである。詩は作れないといつたが、こゝに別樣の意味に於て、なほ詩作はつづけられてゐる。さう思つて少しく慰めてみるのである。
 ダンテの神曲のことが不圖思考の表に上つてくる。氣儘に比較するのでは
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