されました。それはたゞ一《ひと》つの下顎骨《かがくこつ》でありますが、この骨《ほね》は顎《あご》が内側《うちがは》に引込《ひつこ》み、今日《こんにち》の人間《にんげん》とはよほど違《ちが》つてゐますけれども、類人猿《るいじんえん》とは全《まつた》く別種《べつしゆ》であり、もはや人間《にんげん》の仲間《なかま》であることは明《あきら》かであります。第十五圖《だいじゆうごず》をご覽《らん》なさい。たゞ一《ひと》つの下顎骨《かがくこつ》から想像《そう/″\》して見《み》ると、こんな人間《にんげん》が出來上《できあが》るのです。これを『ハイデルベルグ人《じん》』といつてゐます。
[#「第十六図 ハイデルベルグ人下顎骨」のキャプション付きの図(fig18371_16.png)入る]
 その次《つ》ぎに古《ふる》いものは、イギリスのピルツダウンで發見《はつけん》されたもの、それからドイツのネアンデルタール、ベルジュームのスピイなどで發見《はつけん》されたもので、これらのものは皆《みな》ハイデルベルグ人《じん》よりも餘程《よほど》進歩《しんぽ》してをりますけれども、現代《げんだい》の人類《じんるい》、日本人《につぽんじん》、支那人《しなじん》のような黄色人種《こうしよくじんしゆ》、ヨーロッパやアメリカの白色人種《はくしよくじんしゆ》、それからアフリカあたりの黒人《こくじん》まで含《ふく》めた現代人類《げんだいじんるい》と比較《ひかく》して見《み》ると、動物學上《どうぶつがくじよう》これら現代人《げんだいじん》と同《おな》じ一《ひと》つの人種《じんしゆ》にいるべきものではなくて、それとは別《べつ》な種《しゆ》に屬《ぞく》するほどの違《ちが》ひを示《しめ》してをりますので、われ/\はこれを『ホモ・プリミゲニウス』(原始人《げんしじん》)と呼《よ》んでゐるのであります。第十八圖《だいじゆうはちず》はネアンデルタールから出《で》た骨《ほね》から想像《そう/″\》して見《み》た、その時分《じぶん》の人間《にんげん》です。
[#「第十五圖 ハイデルベルグ人」のキャプション付きの図(fig18371_17.png)入る]
[#「第十七圖 ピルツダウン人」のキャプション付きの図(fig18371_18.png)入る]
 その次《つ》ぎの時代《じだい》に出《で》て來《き》た人間《にんげん》は、フランスのドルドンヌ州《しゆう》その他《た》から發見《はつけん》された骨《ほね》によつて代表《だいひよう》されるものであつて、その中《うち》で主《おも》なるものはクロマニヨン人《じん》といはれるものです。この時代《じだい》の人間《にんげん》になると、今日《こんにち》の人間《にんげん》とまったく同《おな》じ種《しゆ》に屬《ぞく》するものであり、またある點《てん》では今《いま》の野蠻人《やばんじん》などよりは餘程《よほど》進《すゝ》んだ頭腦《ずのう》の持《も》ち主《ぬし》であつたことは、その頭《あたま》の骨《ほね》を見《み》てもわかります。ですからクロマニヨン人《じん》は、われ/\と同樣《どうよう》、現代人《げんだいじん》といふ名《な》をつけなければなりません。しかしその現代人《げんだいじん》に屬《ぞく》するクロマニヨン人《じん》が棲《す》んでゐた時代《じだい》はいつ頃《ごろ》だらうと申《まを》しますと、ずいぶん古《ふる》い時代《じだい》であつて明瞭《めいりよう》にはわかりかねるのでありますが、まづ今日《こんにち》から七八千年《しちはつせんねん》乃至《ないし》一萬年《いちまんねん》に近《ちか》い以前《いぜん》であらうといふことです。從《したが》つてそれ以前《いぜん》の原始人《げんしじん》だとか、ハイデルベルグ人《じん》だとかに至《いた》つては何萬年前《なんまんねんまへ》であるか、にはかに見當《けんとう》がつかないくらゐです。まして人《ひと》と猿《さる》の中間《ちゆうかん》とも見《み》られる猿人《えんじん》などは五十萬年《ごじゆうまんねん》、あるひはそれ以上《いじよう》の古《ふる》い昔《むかし》のものとしなければならぬのでありまして、かように考《かんが》へて來《く》ると人間《にんげん》の始《はじ》めはなんとずいぶん古《ふる》いものではありませんか。また人間《にんげん》の現《あらは》れる以前《いぜん》の下等動物《かとうどうぶつ》ばかり棲《す》んでゐた世界《せかい》はどれだけ古《ふる》いことでせう。數千萬年《すうせんまんねん》をもつてかぞへても數《かぞ》へ切《き》れない昔《むかし》とは、實《じつ》に驚《おどろ》くべきことであります。われ/\が歴史《れきし》をもつてから今日《こんにち》まで、わづかに數千年《すうせんねん》といふ短時日《たんじじつ》でありますが、人間《にんげん》の始《
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