。私《わたし》はこの少年《しようねん》の熱心《ねつしん》さに感心《かんしん》したので、
「あなたはかういふ古《ふる》いものがすきですか」
とたづねました。
「はい、私《わたし》はこんなものを調《しら》べるのが一番《いちばん》好《す》きです」
と答《こた》へて、なほも鉛筆《えんぴつ》を手帳《てちよう》の上《うへ》に走《はし》らせてゐるのです。それで私《わたし》は、
「あなたのような熱心《ねつしん》な少年《しようねん》は、將來《しようらい》きっと考古學《こうこがく》の立派《りつぱ》な學者《がくしや》になりませう」
といつて別《わか》れたのでありました。日本《につぽん》にもよし小《ちひ》さくとも、こゝかしこに考古學《こうこがく》の博物館《はくぶつかん》が建《た》てられてあつたら、このドイツの少年《しようねん》のように熱心《ねつしん》な子供《こども》が出來《でき》て來《き》て、それが將來《しようらい》考古學《こうこがく》の偉《えら》い學者《がくしや》になるであらうと感《かん》じたのでありました。
(ロ) 人類《じんるい》の始《はじ》め
[#「第十三圖 ピテカントロプスの頭蓋」のキャプション付きの図(fig18371_14.png)入る]
さて人間《にんげん》は下等動物《かとうどうぶつ》からだん/″\進化《しんか》して來《き》たものであつて、われ/\は猿《さる》と同《おな》じ祖先《そせん》から生《うま》れて來《き》たものであらうといふことは、ダアウヰンが進化論《しんかろん》を唱《とな》へて以來《いらい》、餘程《よほど》の頑固《がんこ》な人《ひと》を除《のぞ》いてたいてい皆《みな》信《しん》ずることになりました。しかし、その人間《にんげん》と猿《さる》との共同祖先《きようどうそせん》はどういふものであつたでせうか。またその共同祖先《きようどうそせん》から今日《こんにち》の人間《にんげん》のようになつた最初《さいしよ》の人間《にんげん》はどういふものであつたでせうか。このようなことを知《し》るには、地中《ちちゆう》に埋《うづ》まつてゐるその古《ふる》い骨《ほね》の化石《かせき》を掘《ほ》り出《だ》し、それを材料《ざいりよう》として研究《けんきゆう》する外《ほか》はありませんが、さてさういふ猿《さる》と人間《にんげん》との中間《ちゆうかん》のものゝ骨《ほね》が今日《こんにち》までにいかほど發見《はつけん》されたかといふに、殘念《ざんねん》ながら中々《なか/\》思《おも》ふように出《で》てまゐりません。しかしたゞ一《ひと》つ今《いま》から四十年前《しじゆうねんぜん》(一八九二|年《ねん》)にオランダの軍醫《ぐんい》デヨボアといふ人《ひと》が、南洋《なんよう》ジャ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]島《とう》のトリニールといふ所《ところ》で發見《はつけん》した骨《ほね》が、ちょうどこの人間《にんげん》と猿《さる》との中間《ちゆうかん》にある動物《どうぶつ》の骨《ほね》だといはれてをります。骨《ほね》といつても、たゞ頭蓋骨《ずがいこつ》の頂《いたゞ》き、いはゆる頭《あたま》の皿《さら》の部分《ぶぶん》と左《ひだり》の腿《もゝ》の骨《ほね》の一部分《いちぶぶん》と臼齒《きゆうし》が出《で》たばかりでありますが、これを調《しら》べて見《み》ると、どうしても今日《こんにち》の類人猿《るいじんえん》とは違《ちが》つて、餘程《よほど》人間的《にんげんてき》の性質《せいしつ》をおびてゐたことがわかるのです。ことに直立《ちよくりつ》して歩行《ほこう》したものであることが、足《あし》の骨《ほね》の性質《せいしつ》によつて十分《じゆうぶん》に想像《そう/″\》せられます。それでその骨《ほね》の持《も》ち主《ぬし》である動物《どうぶつ》と、『ピテカントロプス・エレクツス』すなはち猿人《えんじん》、直立《ちよくりつ》して歩行《ほこう》する猿人《えんじん》といふ名《な》をつけたのであります。この骨《ほね》を基礎《きそ》として顏《かほ》や體《からだ》を造《つく》つて見《み》ると、第十四圖《だいじゆうしず》にあるような猿人《えんじん》となるのです。これが猿《さる》の方《ほう》に近《ちか》いか、人間《にんげん》の方《ほう》に近《ちか》いかは、議論《ぎろん》があるにしても、とにかく人間《にんげん》と猿《さる》との中間《ちゆうかん》の動物《どうぶつ》といつて差《さ》し支《つか》へはありません。
[#「第十四圖 ピテカントロプス猿人」のキャプション付きの図(fig18371_15.png)入る]
その後《ご》、本當《ほんとう》の人間《にんげん》と名《な》のつけられる一番《いちばん》古《ふる》い骨《ほね》は、ドイツのハイデルベルグの附近《ふきん》で發見《はつけん》
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