た種々《しゆ/″\》の品物《しなもの》、それは人間《にんげん》の作《つく》つた道具《どうぐ》とか武器《ぶき》の類《るい》、また建築《けんちく》、彫刻《ちようこく》、繪畫《かいが》その他《た》一切《いつさい》の品物《しなもの》、これを私共《わたしども》は遺物《いぶつ》といつてをりますが、その遺物《いぶつ》によつて人間《にんげん》の過去《かこ》の時代《じだい》の生活《せいかつ》の模樣《もよう》だとか、文化《ぶんか》の状態《じようたい》だとかを研究《けんきゆう》する學問《がくもん》であります。しかし新《あたら》しい時代《じだい》になるほど種々《しゆ/″\》の書《か》き物《もの》などが遺《のこ》つてをりますので、それによつて昔《むかし》のことがたいていわかりますから、遺物《いぶつ》ばかりで調《しら》べる必要《ひつよう》はありませんが、ずっと時代《じだい》が古《ふる》くなり、書《か》き物《もの》があまりなかつたり、またまったくない古《ふる》い時代《じだい》になりますと、どうしても遺物《いぶつ》ばかりで研究《けんきゆう》をするほか方法《ほう/\》はありません。それで考古學《こうこがく》では、遺物《いぶつ》ばかりで研究《けんきゆう》しなければならぬごく古《ふる》い時代《じだい》、あるひは遺物《いぶつ》を主《おも》に使《つか》つて研究《けんきゆう》しなければならぬ古《ふる》い時代《じだい》のことを專《もつぱ》ら調《しら》べて行《ゆ》くのであります。ですから考古學《こうこがく》の博物館《はくぶつかん》といへば、遠《とほ》い古《ふる》い時代《じだい》に人間《にんげん》の造《つく》つた品物《しなもの》を竝《なら》べて置《お》くのでありますが、大《おほ》きい家屋《かおく》だとか洞窟《どうくつ》だとかいふものになりますと、博物館《はくぶつかん》の中《なか》へ持《も》つて來《く》ることが困難《こんなん》ですから、たいていは模型《もけい》や圖面《ずめん》を陳列《ちんれつ》することになつてをります。
 私《わたし》は七八歳《しちはつさい》の少年時代《しようねんじだい》から、昔《むかし》の人《ひと》の作《つく》つた石《いし》の矢《や》の根《ね》などを集《あつ》めて喜《よろこ》んだのでありましたが、その頃《ころ》私《わたし》は石《いし》の矢《や》の根《ね》は人間《にんげん》の作《つく》つたものではなくて、水晶《すいしよう》や何《なに》かと同《おな》じように自然《しぜん》に出來《でき》た石《いし》だとばかり信《しん》じてをりました。またある人《ひと》は石《いし》の矢《や》の根《ね》は天狗《てんぐ》の作《つく》つたものだと話《はな》してくれました。しかしそれは、今日《こんにち》から四十年程前《しじゆうねんほどまへ》のことでありまして、その頃《ころ》には日本《につぽん》のどこへ行《い》つても考古學《こうこがく》の博物館《はくぶつかん》といふものは一《ひと》つもなく、また石《いし》の矢《や》の根《ね》のようなものについても、説明《せつめい》した書物《しよもつ》がなかつたのであります。もしその頃《ころ》考古學《こうこがく》の博物館《はくぶつかん》があつたならば、石《いし》の矢《や》の根《ね》は自然《しぜん》に出來《でき》たものでもなく、また天狗《てんぐ》の作《つく》つたものでもなくて、古《ふる》い時代《じだい》に人間《にんげん》が作《つく》つたものであるといふことがわかつたことでありませう。しかし四十年後《しじゆうねんご》の今日《こんにち》でも、日本《につぽん》では殘念《ざんねん》ながら考古學博物館《こうこがくはくぶつかん》がどこにも設《まう》けられてゐませんから、皆《みな》さんはやはり先生《せんせい》に聽《き》くか、書物《しよもつ》を見《み》るかしなければ、それらについて知《し》ることの出來《でき》ないのは甚《はなは》だ遺憾《いかん》なことであります。
 昨年《さくねん》私《わたし》がドイツを旅行《りよこう》して、ミュンヘンといふ町《まち》へまゐりました時《とき》、そこにある大《おほ》きい美術博物館《びじゆつはくぶつかん》の附近《ふきん》に、小《ちひ》さいけれども考古學博物館《こうこがくはくぶつかん》がありましたので見物《けんぶつ》に出《で》かけました。そこはわづか二《ふた》つか三《みつ》つしか部屋《へや》がなく、ほんとうに小《ちひ》さいもので、爺《ぢい》さんがたゞ一人《ひとり》、つくねんとして番《ばん》をしてゐました。その中《なか》へ私《わたし》がはひつて行《ゆ》くと、陳列棚《ちんれつだな》の陰《かげ》の方《ほう》に一人《ひとり》の少年《しようねん》がゐて、手帳《てちよう》を出《だ》して一《いつ》しょう懸命《けんめい》に見《み》たものについて筆記《ひつき》してゐました
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