立派《りつぱ》な繪《え》が描《か》いてあります。その繪《え》は優《すぐ》れた支那風《しなふう》の繪《え》でありまして、ちょうど支那《しな》の六朝頃《りくちようごろ》の畫風《がふう》を示《しめ》してをります。これは實《じつ》に日本《につぽん》の法隆寺《ほうりゆうじ》の金堂《こんどう》の繪畫《かいが》にも比《くら》ぶべき、立派《りつぱ》な古《ふる》い繪《え》の遺《のこ》りものであります。(第八十二圖《だいはちじゆうにず》)
[#「第八十二圖 朝鮮高句麗[#「朝鮮高句麗」は底本では「朝鮮高勾麗」]」のキャプション付きの図(fig18371_83.png)入る]
 さて鴨緑江《おうりよつこう》をわたり北《きた》の方《ほう》へ行《ゆ》きますと、支那《しな》の領地《りようち》の南滿洲《みなみまんしゆう》でありますが、こゝは日清戰爭《につしんせんそう》、日露戰爭《にちろせんそう》などがあつて以來《いらい》、日本《につぽん》と縁《えん》の深《ふか》い土地《とち》であります。南滿洲《みなみまんしゆう》には、やはり石器時代頃《せつきじだいころ》からすでに人間《にんげん》が住《す》んでをりましたが、周《しゆう》の末《すゑ》から漢《かん》の初《はじ》めに支那人《しなじん》が盛《さか》んに植民《しよくみん》してゐたのです。そしてその頃《ころ》の古墳《こふん》があちらこちらに遺《のこ》つてゐますが、あの旅順《りよじゆん》の西《にし》にある老鐵山《ろうてつざん》の麓《ふもと》などには古《ふる》い城壁《じようへき》がありまして、そのあたりには古《ふる》い墓《はか》がたくさん散在《さんざい》してをります。その中《なか》には、煉瓦《れんが》で造《つく》つた五《いつ》つの室《しつ》のある漢時代《かんじだい》の墓《はか》がありました。それを今《いま》から二十年《にじゆうねん》ほど前《まへ》に、私《わたし》が掘《ほ》りにまゐりましたが、鏡《かゞみ》だとか土《つち》で作《つく》つた家《いへ》の形《かたち》だとかゞ出《で》て來《き》ました。この墓《はか》は、その後《ご》壞《こは》してしまつて、今《いま》では跡方《あとかた》も殘《のこ》つてをりません。また旅順《りよじゆん》の東《ひがし》、營城子《えいじようし》といふところにも、漢時代《かんじだい》の墓《はか》がありまして、平壤《へいじよう》附近《ふきん》の墓《はか》から出《で》るのと同《おな》じような漆器《しつき》などが出《で》ました。また北《きた》の方《ほう》遼陽《りようよう》の北《きた》には石《いし》で大《おほ》きな室《しつ》をつくつた古墳《こふん》があつて、その石室《せきしつ》に繪《え》を描《か》いたのがありましたが、今《いま》は旅順《りよじゆん》の博物館《はくぶつかん》に持《も》つて來《き》てありますから、容易《ようい》に見《み》ることが出來《でき》ます。そのほか南滿洲《みなみまんしゆう》の各地《かくち》には、小《ちひ》さな煉瓦造《れんがづく》りの墓《はか》や石棺《せきかん》がありますが、ことに珍《めづら》しいのは、貝殼《かひがら》でもつて四角《しかく》に取《と》り圍《かこ》み、その中《なか》に死體《したい》を收《をさ》めた墓《はか》であります。それを貝墓《かひはか》と呼《よ》んでをりますが、これは石器時代《せつきじだい》の貝塚《かひづか》とはまったく異《こと》なつたもので、中《なか》からは漢時代《かんじだい》の品物《しなもの》や、その頃《ころ》の古錢《こせん》が出《で》て來《き》ます。これらの古墳《こふん》やまたあちこちから出《で》る周《しゆう》の終《をは》り頃《ごろ》の品物《しなもの》や古錢《こせん》によつて、南滿洲《みなみまんしゆう》にも古《ふる》く周《しゆう》の終《をは》りから漢《かん》の頃《ころ》に支那《しな》の文明《ぶんめい》が傳《つた》はつてゐたことを知《し》ることが出來《でき》るばかりでなく、その頃《ころ》の人《ひと》は小《ちひ》さい舟《ふね》に乘《の》つて海岸傳《かいがんづた》ひにこの南滿洲《みなみまんしゆう》から北朝鮮《きたちようせん》の樂浪《らくろう》を經《へ》て、南朝鮮《みなみちようせん》にも支那《しな》の文明《ぶんめい》を傳《つた》へ、更《さら》に日本《につぽん》の西南《せいなん》へも來《き》たのでありまして、その結果《けつか》つひに朝鮮《ちようせん》も日本《につぽん》も、長《なが》い石器時代《せつきじだい》の夢《ゆめ》からさめて、金屬《きんぞく》を使用《しよう》する新《あたら》しい開《ひら》けた時代《じだい》へ、だん/\進《すゝ》んで行《い》つたものと思《おも》はれます。とにかく、この滿洲《まんしゆう》や朝鮮《ちようせん》にある支那人《しなじん》の古墳《こふん》は、餘《あま》り偉《えら》
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