にも、新羅《しらぎ》の國《くに》は金銀《きんぎん》のたくさんにある國《くに》であると書《か》ゐてありますがそれは確《たしか》にほんとうです。そしてこれほど金《きん》で作《つく》つた品物《しなもの》が墓《はか》にはひつてゐて出《で》た例《れい》は、日本《につぽん》にはまだ一《ひと》つもありません。しかし、それらのものは金《きん》で造《つく》つてありますけれども、その作《つく》り方《かた》はあまり精巧《せいこう》でなく美術的《びじゆつてき》といふよりも、たゞ無闇《むやみ》に金《きん》を使《つか》つた趣味《しゆみ》の低《ひく》い品物《しなもの》といふ外《ほか》はないのです。この慶州以外《けいしゆういがい》の古墳《こふん》から、これほど立派《りつぱ》な金《きん》づくめの品物《しなもの》は、今《いま》まで出《で》たことはありませんが、耳飾《みゝかざ》りだけはいつも金《きん》で作《つく》つてあります。冠《かんむり》や帶飾《おびかざ》りなどは同《おな》じ形《かたち》でも、銅《どう》に金《きん》めっき[#「めっき」に傍点]をしたものや、銀《ぎん》で作《つく》つたものが出《で》ただけです。餘《あま》りたくさんではありませんが、日本《につぽん》の古墳《こふん》からもこれと同《おな》じ類《るい》の冠《かんむり》や帶飾《おびかざ》りが、やはり出《で》るのであり、ことに土器《どき》はまったく祝部土器《いはひべどき》と同《おな》じ燒《や》き方《かた》のもので、これらはみな朝鮮《ちようせん》から日本《につぽん》へ傳《つた》へられたものでありますが、勾玉《まがたま》は果《はた》してどちらからどちらへ傳《つた》はつたものかわかりません。
[#「第八十圖 古代新羅人服飾想像圖」のキャプション付きの図(fig18371_81.png)入る]
いま申《まを》した古墳《こふん》は皆《みな》圓塚《まるづか》でありまして、その中《なか》に漆《うるし》で塗《ぬ》つた棺《かん》を埋《うづ》め、その上《うへ》を大《おほ》きな石塊《いしころ》で包《つゝ》んだものであります。これを積《つ》み石《いし》塚《づか》といひます。新羅《しらぎ》の古《ふる》い墓《はか》は、かういふふうの造《つく》り方《かた》であつたのですが、その後《ご》石室《せきしつ》をつくることになり、ちょうど日本《につぽん》にあるのと同《おな》じような古墳《こふん》が朝鮮《ちようせん》にも出來《でき》たのであります。とにかく南朝鮮《みなみちようせん》の古墳《こふん》が日本《につぽん》の古墳《こふん》と非常《ひじよう》によく似《に》てゐることは、以上《いじよう》申《まを》したゞけでもおわかりでありませう。
(ロ) 北朝鮮《きたちようせん》及《およ》び滿洲《まんしゆう》の古墳《こふん》
朝鮮《ちようせん》の北《きた》の方《ほう》は、今《いま》から千九百年《せんくひやくねん》ほど前《まへ》滿洲《まんしゆう》の方《ほう》からかけて、漢《かん》の武帝《ぶてい》といふ強《つよ》い天子《てんし》が攻《せ》めて來《き》てそこを占領《せんりよう》し、樂浪郡《らくろうぐん》などゝいふ支那《しな》の郡《ぐん》を四《よつ》つも設《まう》けたところであります。ことに樂浪郡《らくろうぐん》の役所《やくしよ》のあつたところは、今日《こんにち》の平壤《へいじよう》の南《みなみ》、大同江《だいどうこう》の向《むか》う岸《ぎし》にあつて、古《ふる》い城壁《じようへき》のあともありますが、支那《しな》から派遣《はけん》せられた役人《やくにん》がこゝに留《とゞ》まつて朝鮮《ちようせん》を治《をさ》めてゐたのであります。それですからその附近《ふきん》には、その頃《ころ》の支那人《しなじん》の古墳《こふん》がたくさんあるのであります。これはみな小《ちひ》さい圓塚《まるづか》であつて、中《なか》には木《き》の棺《かん》を入《い》れたものやあるひは大《おほ》きな煉瓦《れんが》(甎《せん》といひます)で室《しつ》をつくつたものもありまして、その煉瓦《れんが》にはいろ/\模樣《もよう》があります。これらの墓《はか》を掘《ほ》りますと立派《りつぱ》な品物《しなもの》がたくさん出《で》ますが、それには前《まへ》に新羅《しらぎ》の墓《はか》で見《み》たような金《きん》ぴかものはありません。もっとじみ[#「じみ」に傍点]な銅《どう》や玉《ぎよく》でつくつた品物《しなもの》で、かへって美術的《びじゆつてき》にはなか/\優《すぐ》れたものが大《たい》そう多《おほ》いのです。新羅《しらぎ》の人《ひと》とこゝにゐた漢《かん》の人《ひと》との、趣味《しゆみ》の相違《そうい》がよくわかつて面白《おもしろ》いと思《おも》はれます。
ある墓《はか》の中《なか》からは、木棺
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