《きんかんづか》と名《な》づけましたが、そのわけは、この塚《つか》の中《なか》から、それは/\立派《りつぱ》な金《きん》の冠《かんむり》が出《で》たからであります。(この本《ほん》の口繪《くちえ》を御覽《ごらん》なさい)この冠《かんむり》はまったく純金作《じゆんきんづく》りでありまして、その五本《ごほん》の前立《まへた》てには小《ちひ》さな圓《まる》いぴら/\や、美《うつく》しい緑色《みどりいろ》の翡翆《ひすい》の小《ちひ》さい勾玉《まがたま》が七十《しちじゆう》ばかりもぶら下《さが》つてをりまして、これを頭《あたま》の上《うへ》に載《の》せてみると、それらがゆら/\と搖《ゆ》れて、なんともいへぬ美《うつく》しさを見《み》せます。そればかりではなく、冠《かんむり》の眞中《まんなか》からは鳥《とり》の羽根《はね》に似《に》た長《なが》い金《きん》の飾《かざ》りが後《うしろ》の方《ほう》に立《た》ち、また冠《かんむり》の兩側《りようがは》からも金《きん》の飾《かざ》りがぶら下《さが》つて、その端《はし》に勾玉《まがたま》がついてゐるといふ、すばらしい立派《りつぱ》な金《きん》の冠《かんむり》なのです。またこの冠《かんむり》を着《つ》けてゐた人《ひと》の腰《こし》のあたりには、金飾《きんかざ》りの美《うつく》しい帶《おび》がありまして、その帶《おび》から腰《こし》のまはりには、十七本《じゆうしちほん》の金《きん》で作《つく》つた下《さ》げ物《もの》をぶら下《さ》げてをり、その下《さ》げ物《もの》の先《さき》には、香入《こうい》れや魚《さかな》の形《かたち》の勾玉《まがたま》や毛拔《けぬ》きのような小道具《こどうぐ》がついてをります。そして、また腕《うで》には腕環《うでわ》、指《ゆび》には指環《ゆびわ》をつけ、足《あし》には金《きん》めっきした美《うつく》しい銅《どう》の靴《くつ》が添《そ》へてあるばかりでなく、この墓《はか》からは支那《しな》から渡《わた》つた銅器《どうき》、がらす器《き》の類《るい》をはじめ、馬具《ばぐ》、刀劍《とうけん》、土器《どき》などが無數《むすう》に出《で》たので、實《じつ》に見《み》る人《ひと》の眼《め》を驚《おどろ》かしたのでありました。私《わたし》もちょうどそれらが發見《はつけん》された時《とき》に、そこへ來合《きあは》せてゐてその立派《りつぱ》さに驚《おどろ》いた次第《しだい》であります。しかし私《わたし》は一度《いちど》この金《きん》の冠《かんむり》を頭《あたま》へのせて見《み》たことがありましたが、こんな冠《かんむり》やいろ/\の飾《かざ》りをつけてはその頃《ころ》の人《ひと》はさぞ重《おも》くて、きゅうくつなことであつたらうと思《おも》ひました。これは定《さだ》めし新羅《しらぎ》の古《ふる》い王樣《おうさま》のお墓《はか》でありませうが、その王樣《おうさま》の名《な》がわかりませんのは殘念《ざんねん》です。しかし大體《だいたい》日本《につぽん》の欽明天皇前後《きんめいてんのうぜんご》(今《いま》から千四百年《せんしひやくねん》ほど前《まへ》)の古墳《こふん》と思《おも》はれます。(第七十九圖《だいしちじゆうくず》)
[#「第七十九圖 慶州金冠塚發見品」のキャプション付きの図(fig18371_80png)入る]
かような塚《つか》は、こればかりでなく、その後《ご》おひ/\と同《おな》じような金《きん》の冠《かんむり》を納《をさ》められたのがたくさん現《あらは》れました。あの鳳凰臺《ほうおうだい》の南《みなみ》の方《ほう》の小《ちひ》さい塚《つか》からも金冠《きんかん》が出《で》たのです。それは形《かたち》が小《ちひ》さく、また腰《こし》に下《さ》げた飾《かざ》り物《もの》も小《ちひ》さく可愛《かわい》らしいので、多分《たぶん》王樣《おうさま》の子供《こども》のお墓《はか》だらうと想像《そう/″\》されます。また金冠塚《きんかんづか》のすぐ西《にし》の塚《つか》を、今《いま》から二三年前《にさんねんぜん》、スヱーデンの皇太子殿下《こうたいしでんか》が御出《おい》でになつたとき[#「なつたとき」は底本では「なつとき」]掘《ほ》つてみました。これもまた金冠塚《きんかんづか》と同《おな》じような勾玉《まがたま》のついた金冠《きんかん》や金《きん》の飾《かざ》り物《もの》が出《で》ましたので、その品物《しなもの》をそのまゝ土《つち》の中《なか》に竝《なら》べて、殿下《でんか》に御覽《ごらん》に入《い》れましたが、朝日《あさひ》の光《ひか》りを受《う》けて金《きん》ぴかの品物《しなもの》が輝《かゞや》いてゐるありさまは、なんともいへぬ見物《みもの》でありました。『日本書紀《につぽんしよき》』の中《なか》
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