ことは、前《まへ》に申《まを》したとほりで、たゞ簡單《かんたん》な圓《えん》や三角《さんかく》の圖《ず》の他《ほか》には、刀劍《とうけん》の柄《つか》の飾《かざ》りにあつたような、直線《ちよくせん》と弧線《こせん》とを組《く》み合《あは》せた、不思議《ふしぎ》な模樣《もよう》が目《め》につくだけです。この模樣《もよう》はまづ日本《につぽん》にしか見《み》られないもので、古墳《こふん》の内部《ないぶ》やその他《た》の品物《しなもの》にもよくつけてあるのですが、餘《あま》り珍《めづら》しいので近頃《ちかごろ》西洋《せいよう》あたりで流行《りゆうこう》する模樣《もよう》かと思《おも》ふ人《ひと》があるくらゐです。(この本《ほん》の表紙畫《ひようしえ》を御覽《ごらん》なさい)この他《ほか》馬具《ばぐ》や何《なに》かに支那朝鮮《しなちようせん》から傳《つた》はり、あるひはそれをまねた品物《しなもの》に、支那朝鮮風《しなちようせんふう》の模樣《もよう》がついてゐるものもありますが、それはこの時代《じだい》には、まだほんの借《か》りものに過《す》ぎなかつたのでした。
 かういふふうに古墳《こふん》から出《で》る品物《しなもの》を見《み》て、われ/\はその時分《じぶん》の人々《ひと/″\》が、どういふ心持《こゝろも》ちでをつたか、どういふ趣味《しゆみ》を持《も》つてをつたかといふことがわかり、また支那《しな》あたりからはひつて來《き》た文化《ぶんか》のほかに、昔《むかし》から日本人《につぽんじん》が持《も》つてをつた固有《こゆう》の文化《ぶんか》や趣味《しゆみ》が、やはり殘《のこ》つてゐたことが知《し》られるのです。これは近頃《ちかごろ》西洋《せいよう》の文明《ぶんめい》がはひつて來《き》ても同《おな》じことで、いかに西洋風《せいようふう》を習《なら》つても、ある點《てん》には日本人《につぽんじん》には日本人《につぽんじん》らしい趣味《しゆみ》と特質《とくしつ》が、消《き》えないのであります。またそれがなくなつては、日本人《につぽんじん》でなくなるのですから大《たい》へんです。
 またこれらの古墳《こふん》から出《で》た品物《しなもの》を調《しら》べて知《し》られることは幾《いく》らもあります。例《たと》へば昔《むかし》の人《ひと》はどういふ生活《せいかつ》をし、どういふ風俗《ふうぞく》をしてをつたかといふことも、書物《しよもつ》だけでははっきりわからぬことを、よく知《し》ることが出來《でき》るのですから、古墳《こふん》をやたらに掘《ほ》つたりすることは惡《わる》いことでありますが、何《なに》かの拍子《ひようし》に壞《こは》れたりして、中《なか》から物《もの》が出《で》た時《とき》には大切《たいせつ》にこれを保存《ほぞん》し、丁寧《ていねい》にこれを調《しら》べなくてはなりません。そしてかういふことを調《しら》べる人《ひと》が考古學《こうこがく》をやる學者《がくしや》なのです。なほ昔《むかし》の風俗《ふうぞく》や生活《せいかつ》のあり樣《さま》については、詳《くは》しいことをこゝでお話《はな》しする時間《じかん》もなく、皆《みな》さんが歴史《れきし》の本《ほん》や他《ほか》の先生《せんせい》から教《をそ》はることゝ思《おも》ひますから、今日《けふ》はこれだけでよして置《お》きます。
[#「第七十四圖 銅鐸の模樣畫」のキャプション付きの図(fig18371_75.png)入る]
[#「第七十五圖 日本古墳装飾模樣圖」のキャプション付きの図(fig18371_76.png)入る]

      (ヌ) 古瓦《ふるがはら》と古建築《こけんちく》

 日本《につぽん》の古墳《こふん》から發見《はつけん》されてゐるいろ/\の品物《しなもの》は、皆《みな》さんと一《いつ》しょに見《み》てまゐりましたが、この日本《につぽん》の古墳《こふん》と非常《ひじよう》によく似《に》てゐる朝鮮《ちようせん》などの古墳《こふん》についても、この博物館《はくぶつかん》に參考《さんこう》として少《すこ》しばかり品物《しなもの》や摸型《もけい》を竝《なら》べてありますから、それらを見《み》なければなりませんが、その前《まへ》に、こゝにあります日本《につぽん》から出《で》る古《ふる》い瓦《かはら》を、ちょっと見《み》ることにいたしませう。
 日本《につぽん》の古墳《こふん》が造《つく》られた時代《じだい》の終《をは》りの頃《ころ》には、もはや朝鮮《ちようせん》をへて日本《につぽん》へ佛教《ぶつきよう》がはひり、それと一《いつ》しょにお寺《てら》の建築《けんちく》が、だん/\出來《でき》かけてをりました。あの大和《やまと》の法隆寺《ほうりゆうじ》などの大《おほ》きい伽藍《がらん》
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