家《か》などの類《るい》はどういふふうなものであつたかといふと、前《まへ》にも申《まを》したとほり、屋根《やね》は草葺《くさぶ》き、茅葺《かやぶ》きあるひはまた板葺《いたぶ》き、柱《はしら》は圓《まる》い材木《もくざい》をそのまゝ、あるひは皮《かは》をむいて用《もち》ひ、柱《はしら》の下《した》には礎《いしずゑ》もない、掘立《ほつた》て小屋《ごや》といふふうなものであつたので、今日《こんにち》その跡《あと》はなにも殘《のこ》つてをりません。それゆゑ、これはたゞあの埴輪《はにわ》の家《いへ》や、そのほかの品物《しなもの》に現《あらは》れてゐる家《いへ》の形《かたち》と、歴史《れきし》や歌《うた》の書物《しよもつ》に書《か》いてあるところで想像《そう/″\》するほかには、今《いま》なほ神社《じんじや》や民家《みんか》に殘《のこ》つてゐる古《ふる》い作《つく》り方《かた》を參考《さんこう》にするほかはありません。また倉《くら》のような建《た》て物《もの》は、多《おほ》くは今日《こんにち》も奈良《なら》の正倉院《しようそういん》の御倉《おくら》などに見《み》るような、木《き》を組《く》みあはせた校倉《あぜくら》といふものであつたと思《おも》はれます。
その次《つ》ぎに彫刻《ちようこく》といふものはなんであるかといふに、これは埴輪《はにわ》の人形《にんぎよう》や動物《どうぶつ》の像《ぞう》または石人《せきじん》石馬《せきば》などがそれであります。もちろんあの埴輪《はにわ》は、お葬式《そうしき》の時《とき》に作《つく》つて墓場《はかば》に立《た》てたもので、非常《ひじよう》に骨《ほね》ををつて作《つく》つたものではありませんが、その粗末《そまつ》な下手《へた》な作《つく》り方《かた》のうちにも、この時代《じだい》の人《ひと》の無邪氣《むじやき》な素直《すなほ》な心持《こゝろも》ちがよく現《あらは》れてをります。かういふ埴輪《はにわ》の人形《にんぎよう》を作《つく》つてゐる時《とき》に、朝鮮《ちようせん》から佛教《ぶつきよう》が傳《つた》はり、お釋迦《しやか》さま、彌勒《みろく》さま、觀音《かんのん》さまのような佛樣《ほとけさま》の像《ぞう》が持《も》ちこまれたのですから、驚《おどろ》いたのはむりもないのです。これは立派《りつぱ》なお姿《すがた》だと感心《かんしん》して、佛教《ぶつきよう》を信《しん》ずるものも多《おほ》く出來《でき》たのですが、そのうち日本《につぽん》でも佛像《ぶつぞう》を作《つく》るようになり、それから百年《ひやくねん》もたゝない奈良朝《ならちよう》ごろになつては、その本家《ほんけ》である支那朝鮮《しなちようせん》の佛像《ぶつぞう》にも優《まさ》るとも劣《おと》らない、立派《りつぱ》な彫刻《ちようこく》が出來《でき》たのであります。
それではこの時代《じだい》の繪畫《かいが》といふものは殘《のこ》つてゐるかといひますと、もちろん襖《ふすま》や唐紙《からかみ》に描《か》き、掛《か》け軸《じく》にした繪《え》などは、この時代《じだい》にはないばかりでなく、またあつたからとて今日《こんにち》まで殘《のこ》つてゐるはずはありません。またあのヨーロッパの舊石器時代《きゆうせつきじだい》の大昔《おほむかし》のように、洞穴《ほらあな》に描《か》いたすばらしい動物《どうぶつ》の畫《え》などはまったくなく、たゞ銅鐸《どうたく》の上《うへ》に現《あらは》してある簡單《かんたん》な子供《こども》が描《か》いたような、しかし非常《ひじよう》に面白《おもしろ》い人物《じんぶつ》動物《どうぶつ》家屋《かおく》の圖《ず》などの他《ほか》には、祝部土器《いはひべどき》やその他《た》の品物《しなもの》、または古墳《こふん》の石室横穴《せきしつよこあな》の中《なか》の壁《かべ》などに彫《ほ》りつけた、まことに粗末《そまつ》な人物《じんぶつ》や盾《たて》、矢筒《やつゝ》などの品物《しなもの》の圖《ず》が少《すこ》し殘《のこ》つてゐるだけでありまして、ごく昔《むかし》の日本人《につぽんじん》はけっして繪《え》が上手《じようず》であつたとか、好《す》きであつたとはいふことが出來《でき》ないのです。しかし、それは生《うま》れつき下手《へた》であつたといふわけではない證據《しようこ》には、後《のち》に支那朝鮮《しなちようせん》から繪畫《かいが》が傳《つた》はつて來《く》ると、すぐにそれを習《なら》つて、非常《ひじよう》に立派《りつぱ》なものを作《つく》り出《だ》すことになつたのであります。
次《つ》ぎに裝飾《そうしよく》模樣《もよう》の類《るい》も、石器時代《せつきじだい》の土器《どき》にあるような、曲線《きよくせん》のごて/\した模樣《もよう》のまったくない
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