《と》りかへてもらひ、喜《よろこ》んで家《いへ》へかへりました。ところが翌日《よくじつ》厩《うまや》へ行《い》つてその赤馬《あかうま》を見《み》ますと、驚《おどろ》いたことには、それは土《つち》の馬《うま》でありました。これはへんなことだと、伯孫《はくそん》はゆうべの應神天皇《おうじんてんのう》の御陵《ごりよう》の所《ところ》へ行《い》つて見《み》ましたら、自分《じぶん》の乘《の》つてゐた馬《うま》は、御陵《ごりよう》の前《まへ》にある埴輪《はにわ》の土馬《つちうま》の間《あひだ》にをつて、主人《しゆじん》をまつてゐた[#「まつてゐた」は底本では「まつてるた」]ので、またびっくりしましたが、やうやくその馬《うま》と土馬《つちうま》と取《と》りかへて家《いへ》へつれて歸《かへ》つたといふ面白《おもしろ》いうそ[#「うそ」に傍点]のような話《はなし》であります。これはその時分《じぶん》河内《かはち》の役人《やくにん》から朝廷《ちようてい》へ報告《ほうこく》した事實《じじつ》でありまして、とにかく當時《とうじ》馬《うま》に乘《の》ることが行《おこな》はれてをり、また埴輪《はにわ》の馬《うま》が御陵《ごりよう》に立《た》つてゐたことを、われ/\に教《をし》へてくれる話《はなし》であります。
[#「第七十一圖 田邊伯孫譽田陵に馬を求む」のキャプション付きの図(fig18371_72.png)入る]
 馬具《ばぐ》のほかに、古墳《こふん》からたくさん出《で》るものは土器《どき》であります。しかし、この土器《どき》はごく古《ふる》い古墳《こふん》からは餘《あま》り發見《はつけん》せられず、石室《せきしつ》の出來《でき》た頃《ころ》からの古墳《こふん》にたくさん收《をさ》められてをり、一《ひと》つの墓《はか》から時《とき》には五六十《ごろくじゆう》も一度《いちど》に土器《どき》の出《で》て來《く》ることがあります。それらの土器《どき》の燒《や》き方《かた》は、前《まへ》に申《まを》した彌生式土器《やよひしきどき》に似《に》たところの赭《あか》い色《いろ》の軟《やはら》かい素燒《すや》きのものもありますが、たいていは鼠色《ねずみいろ》をした、ごく硬《かた》い陶器《とうき》とでもいへる燒《や》き物《もの》であつて、私《わたし》どもはこれをいはひべ[#「いはひべ」に傍点](祝部《いはひべ》)土器《どき》と呼《よ》んでをります。この燒《や》き方《かた》は朝鮮《ちようせん》からはひつて來《き》て、日本《につぽん》にだん/\行《おこな》はれるようになつたのでありまして、その形《かたち》はいろ/\あります。例《たと》へば坏《つき》といふ平《ひら》たいお椀《わん》のようなもの、それに蓋《ふた》のついたもの、またその坏《つき》に高《たか》い臺《だい》のついた高坏《たかつき》といふようなものなどたくさんありますが、それらはふだん食事《しよくじ》のときに御馳走《ごちそう》を盛《も》つた道具《どうぐ》だと思《おも》はれます。そのほか、壺《つぼ》にも頸《くび》の長《なが》いのや短《みじか》いのや、いろ/\あります。また酒《さけ》や水《みづ》が五六升《ごろくしよう》もはひるような大瓶《おほかめ》があり、珍《めづら》しい恰好《かつこう》のものには、丈《たけ》の高《たか》い透《すか》し入《い》りの壺《つぼ》をのせる臺《だい》だとか、壺《つぼ》と臺《だい》とくっついてゐるものだとか、口《くち》の周《まは》りに人間《にんげん》や馬《うま》の小《ちひ》さい形《かたち》をつけた、飾《かざ》りつきの壺《つぼ》だとか、また口《くち》のついたしびん[#「しびん」に傍点]のような形《かたち》をしたものもありますが、なかにも不思議《ふしぎ》なのははさふ[#「はさふ」に傍点]といふ器物《きぶつ》です。それは小《ちひ》さい壺《つぼ》の上《うへ》に、朝顏形《あさがほがたち》に開《ひら》いた長《なが》い口《くち》があり、壺《つぼ》の横《よこ》に小《ちひ》さい孔《あな》がついてゐるものです。何《なに》に使《つか》つたのかよくわかりませんが、ある人《ひと》はその孔《あな》に小《ちひ》さい竹《たけ》の管《くだ》を差《さ》し込《こ》んで、中《なか》にある水《みづ》とか酒《さけ》とかを吸《す》つたものだらうといひます。あるひはさうかも知《し》れません。また横《よこ》に長《なが》い俵《たはら》のような恰好《かつこう》をして、そのまん中《なか》に口《くち》をつけた横瓮《よこべ》といふ壺《つぼ》がありますし、ひらべったい壺《つぼ》で紐《ひも》をつける耳《みゝ》と口《くち》のついた提《さ》げ瓶《つぼ》といふのがありまして、これはちょうど今日《こんにち》あるみにゅーむ[#「あるみにゅーむ」に傍点]製《せい》の水筒《すい
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