《しな》にも朝鮮《ちようせん》にも見《み》つかりませんので、まづ日本《につぽん》で初《はじ》めて出來《でき》たものだらうと思《おも》はれます。その次《つ》ぎに環頭《かんとう》の劍《つるぎ》といふのがあります。これは柄《つか》の頭《あたま》のところが環《かん》の形《かたち》をして、その中《なか》に鳥《とり》や獸《けだもの》や、あるひは花《はな》の形《かたち》がついてゐるものであります。この種類《しゆるい》のものは朝鮮《ちようせん》や支那《しな》からも出《で》ますので、多《おほ》くはかの地《ち》から日本《につぽん》へ輸入《ゆにゆう》して來《き》たものか、またそれを摸造《もぞう》したものであると思《おも》はれます。それからまた、日本《につぽん》で作《つく》られたと思《おも》はれるものに、蕨手《わらびて》の劍《つるぎ》といふのがありますが、これは大《おほ》きな劍《つるぎ》にはなくて、小《ちひ》さい刀《かたな》にたくさんありまして、柄《つか》の頭《あたま》が蕨《わらび》のように曲《まが》つてゐるものであります。(第六十八圖《だいろくじゆうはちず》)
[#「第六十八圖 日本古墳發見刀劔」のキャプション付きの図(fig18371_69.png)入る]
 以上《いじよう》述《の》べた、いろ/\の刀劍《とうけん》の拵《こしら》へは、たいてい金《きん》めっき[#「めっき」に傍点]をした銅《どう》で作《つく》つたものであつて[#「あつて」は底本では「あつつて」]、その中《なか》には『くぶつち』のように日本獨特《につぽんどくとく》の拵《こしら》へもありますが、多《おほ》くは支那朝鮮《しなちようせん》のもの、もしくはそれをまねたもので、かような外國風《がいこくふう》のものを、その時分《じぶん》の人《ひと》が喜《よろこ》んで用《もち》ひたのはむりもありません。しかしまた一方《いつぽう》には、日本《につぽん》に古《ふる》くから行《おこな》はれてゐた作《つく》りの刀劍《とうけん》もやはり用《もち》ひられてゐたものであります。例《たと》へば劍《つるぎ》の柄《つか》のところを鹿《しか》の角《つの》で裝飾《そうしよく》し、その上《うへ》に外國《がいこく》では見《み》られない直線《ちよくせん》や弧線《こせん》の組《く》み合《あは》せた模樣《もよう》をつけた日本風《につぽんふう》な刀劍《とうけん》が、外國的《がいこくてき》な刀劍《とうけん》と同時《どうじ》に用《もち》ひられてゐたのであります。これはそれらの刀劍《とうけん》が同《おな》じ墓《はか》から、一《いつ》しょに發見《はつけん》されることでよくわかります。
 昔《むかし》の人《ひと》は、今日《こんにち》田舍《ゐなか》の樵《きこり》や農夫《のうふ》が山《やま》へ行《ゆ》く時《とき》に、鎌《かま》や斧《をの》を腰《こし》に着《つ》けてゐるように、きっと何《なに》か刃物《はもの》を持《も》つてゐたものと思《おも》ひます。また皆《みな》さんが學校《がつこう》へ行《ゆ》く時《とき》、鉛筆《えんぴつ》をけづつたりする場合《ばあひ》にないふ[#「ないふ」に傍点]が必要《ひつよう》であるように、昔《むかし》の人《ひと》も常《つね》に小刀《こがたな》を持《も》つてをりました。その小刀《こがたな》を刀子《とうす》と申《まを》しますが、それが墓場《はかば》からたくさん發見《はつけん》されます。この刀子《とうす》は男《をとこ》ばかりでなく、女《をんな》の人《ひと》もお守《まも》りに持《も》つてゐたと思《おも》はれますが、その鞘《さや》は木《き》でつくつたものゝほかに、毛《け》のついた皮《かは》を縫《ぬ》ひ合《あは》せてつくつたものが、一般《いつぱん》に行《おこな》はれてゐたようです。そしてお墓《はか》の中《なか》にほんとうの刀子《とうす》を納《をさ》めたばかりでなく、石《いし》でつくつた刀子《とうす》で、ちょっと見《み》るとなんの形《かたち》だかわからぬ形《かたち》をしたものをも、たくさん埋《うづ》めたのでありました。それがやはり古墳《こふん》から出《で》て來《く》るのであります。(第七十三圖《だいしちじゆうさんず》)
 さて刀劍《とうけん》が出《で》るくらゐでありますから、甲胄《かつちゆう》もまた墓《はか》の中《なか》からたくさん出《で》て來《く》るのです。これはたいてい鐵《てつ》で作《つく》つたものでありまして、後《のち》の時代《じだい》の鎧《よろひ》や劍道《けんどう》のお胴《どう》に似《に》たようなものであります。なにぶん薄《うす》い鐵《てつ》の板《いた》でつくり、これを革《かは》の紐《ひも》で結《むす》び合《あは》せたものでありますから、今《いま》ではぼろ/\に壞《こは》れて、完全《かんぜん》に遺《のこ》つてゐるものは稀《まれ》
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