らない字《じ》の形《かたち》になつたり、模樣《もよう》もはつきりいたしません。それでこれをよく見《み》ますと日本製《につぽんせい》か支那製《しなせい》かの區別《くべつ》はわかるのであります。またそれらの鏡《かゞみ》をお墓《はか》に入《い》れるときには、はじめは袋《ふくろ》のようなものに納《をさ》めて入《い》れたに相違《そうい》なく、いま發見《はつけん》される鏡《かゞみ》の端《はし》に腐《くさ》つた布《ぬの》のはし[#「はし」に傍点]が着《つ》いてゐるのを見《み》ても、それを知《し》ることが出來《でき》ます。(第六十六圖《だいろくじゆうろくず》)
古墳《こふん》からは、漢《かん》から六朝頃《りくちようころ》までの鏡《かゞみ》と、それを摸造《もぞう》した日本製《につぽんせい》の鏡《かゞみ》とが出《で》るだけで、唐以後《とういご》の鏡《かゞみ》はほとんど發見《はつけん》されないといつてもよろしい。しかし鏡《かゞみ》は、もちろんその頃《ころ》でも用《もち》ひられてゐたので、たゞ墓《はか》へ餘《あま》り入《い》れなかつたものと思《おも》はれます。しかし日本《につぽん》では平安朝以後《へいあんちよういご》になりますと、唐《とう》の鏡《かゞみ》の模樣《もよう》をだん/\變化《へんか》させて、遂《つひ》にはまったく日本的《につぽんてき》のごく優美《ゆうび》な模樣《もよう》をつけた鏡《かゞみ》を作《つく》るようになりました。さういふ鏡《かゞみ》は古墳《こふん》からは出《で》ませんけれども、經塚《きようづか》といつて、お經《きよう》などを埋《うづ》めた後《のち》の時代《じだい》の塚《つか》からよく發見《はつけん》されます。前《まへ》には日本製《につぽんせい》の鏡《かゞみ》は支那製《しなせい》に比《くら》べて非常《ひじよう》に拙《まづ》かつたのが、この平安朝《へいあんちよう》から足利時代《あしかゞじだい》になつて、支那《しな》の同時代《どうじだい》の鏡《かゞみ》と比《くら》べて、かへって巧《うま》く出來《でき》、なか/\優《すぐ》れたところがあるのであります。この日本製《につぽんせい》の鏡《かゞみ》を和鏡《わきよう》と申《まを》してをります。つまりそれは日本《につぽん》がその時代《じだい》になつて、だん/″\文化《ぶんか》が進《すゝ》んで技術《ぎじゆつ》も秀《すぐ》れて行《い》つたことを示《しめ》す、何《なに》よりもよい證據《しようこ》であります。
(ト) 刀劒《とうけん》と甲冑《かつちゆう》
いまお話《はなし》した古墳《こふん》から出《で》る鏡《かゞみ》は青銅《せいどう》で作《つく》つてあるので、青色《あをいろ》の錆《さび》が出《で》てをつても、腐《くさ》つたものは少《すくな》く、たいてい壞《こは》れないで土《つち》の中《なか》から出《で》て來《き》ます。ところが古墳《こふん》に入《い》れてあつた刀《かたな》や劍《つるぎ》の類《るい》になりますと、その數《かず》は非常《ひじよう》にたくさんありますが、中身《なかみ》がみな鐵《てつ》ですから赤錆《あかさび》になつて、ぼろ/\に腐《くさ》つてしまひ、完全《かんぜん》に取《と》り出《だ》すことはよほど難《むつか》しいのであります。たゞ鞘《さや》の上《うへ》に飾《かざ》つてあつた、金《きん》めっき[#「めっき」に傍点]をした銅《どう》などの部分《ぶぶん》だけが、わりあひによく殘《のこ》つてゐるだけであります。さてこの時分《じぶん》の刀劍《とうけん》の身《み》は、みな眞《まつ》すぐで、後《のち》の時代《じだい》の刀《かたな》のように反《そ》りがありません。また源頼朝《みなもとのよりとも》や義經《よしつね》などの時代《じだい》から後《のち》になりますと、皆《みな》さんも知《し》つてゐるとほり、日本刀《につぽんとう》といふものが盛《さか》んに作《つく》られて、支那《しな》へも輸出《ゆしゆつ》されたくらゐでありましたが、この古《ふる》い時代《じだい》ではかへって支那《しな》や朝鮮《ちようせん》からよい刀劍《とうけん》が輸入《ゆにゆう》されたであります。
刀劍《とうけん》の身《み》の形《かたち》は、たいてい大《たい》した違《ちが》ひはありませんが、柄《つか》の形《かたち》にはいろ/\異《ことな》つたものがありまして、そのうち珍《めづら》しいものには、『くぶつち』の劍《つるぎ》といふのがあります。これは柄《つか》の頭《あたま》が槌《つち》の頭《あたま》、あるひは拳《こぶし》を曲《ま》げたような形《かたち》をしてゐるもので、多《おほ》くは金《きん》めっき[#「めっき」に傍点]をした銅《どう》で出來《でき》て、非常《ひじよう》にきれいなものであります。かういふふうな作《つく》りの劍《つるぎ》は、支那
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