み》に至《いた》つてはほとんどまったく發見《はつけん》せられないのです。王樣《おうさま》の墓《はか》と思《おも》はれる立派《りつぱ》な墓《はか》でも、鏡《かゞみ》は一枚《いちまい》も掘《ほ》り出《だ》されないのは、實《じつ》に奇妙《きみよう》に思《おも》はれますが、まさか新羅《しらぎ》の人《ひと》でも鏡《かゞみ》を使《つか》はず、お化粧《けしよう》をしなかつたとは思《おも》はれませんので、鏡《かゞみ》は用《もち》ひてゐたけれども、死人《しにん》の棺《かん》の中《なか》に、何《なに》かの理由《りゆう》で入《い》れなかつたものと考《かんが》へられます。しかし次《つ》ぎの高麗《かうらい》といふ時代《じだい》の墓《はか》からは鏡《かゞみ》がたくさん出《で》ます。とにかく鏡《かゞみ》は昔《むかし》支那《しな》でも顏《かほ》を寫《うつ》すばかりのものではなく、これを持《も》つてゐると、惡魔《あくま》を除《よ》けるといふような考《かんが》へがあつたので、墓《はか》に收《をさ》めたのもさういふ意味《いみ》があつたかも知《し》れないのです。かように新羅《しらぎ》の人《ひと》は鏡《かゞみ》を使《つか》つたにしても、墓《はか》に埋《うづ》めないから、支那《しな》からたくさんの鏡《かゞみ》がはひつて來《き》たとは思《おも》はれません。それゆゑ日本《につぽん》へ來《き》た支那《しな》の鏡《かゞみ》は、朝鮮《ちようせん》を經《へ》ないで恐《おそ》らく南支那邊《みなみしなへん》から、直接《ちよくせつ》に來《き》たものと思《おも》はれます。
さて支那《しな》では周《しゆう》のすゑ秦《しん》の時代頃《じだいころ》から、鏡《かゞみ》が作《つく》られてゐたらしいのでありますが、漢《かん》の時代《じだい》になつてから非常《ひじよう》にたくさんに作《つく》られ、六朝時代《りくちようじだい》を經《へ》て唐《とう》の時代《じだい》まで、盛《さか》んに立派《りつぱ》な鏡《かゞみ》が現《あらは》れましたが、その後《ご》宋《そう》の時代《じだい》からは、だん/\拙《まづ》い粗末《そまつ》なものになつてしまひました。また鏡《かゞみ》の形《かたち》は唐《とう》の時代頃《じだいころ》までは多《おほ》く圓《まる》い鏡《かゞみ》でありまして、あの花瓣《かべん》のように周圍《しゆうい》が切《き》れてゐる八稜鏡《はちりようきよう》とか八花鏡《はつかきよう》といふ形《かたち》の鏡《かゞみ》は、まったく唐《とう》の時代《じだい》になつて初《はじ》めて出來《でき》たものであり、また柄《え》のついた鏡《かゞみ》や四角《しかく》な鏡《かゞみ》も、唐《とう》や宋《そう》以後《いご》のものであります。それに世間《せけん》では三種《さんしゆ》の神器《じんぎ》の中《なか》にある御鏡《みかゞみ》を、八稜鏡《はちりようきよう》のような恰好《かつこう》のものと思《おも》ふ人《ひと》があるのは間違《まちが》ひで、もちろん、たれもこれを拜《はい》した人《ひと》はないのでありますが、古《ふる》い時代《じだい》の鏡《かゞみ》でありますれば、必《かなら》ず圓《まる》い鏡《かゞみ》でなければなりません。(第六十七圖《だいろくじゆうしちず》)
[#「第六十六圖 日本支那古鏡」のキャプション付きの図(fig18371_67.png)入る]
[#「第六十七圖 日本支那古鏡」のキャプション付きの図(fig18371_68.png)入る]
さて古墳《こふん》の中《なか》から出《で》る鏡《かゞみ》は、ちょうど漢《かん》から六朝時代《りくちようじだい》の鏡《かゞみ》でありまして、その裏面《りめん》、顏《かほ》を寫《うつ》す面《めん》の反對面《はんたいめん》には、たいてい圓《まる》い鈕《じゆう》があつて、その周圍《しゆうい》にはいろ/\の模樣《もよう》が刻《きざ》まれてゐます。時代《じだい》が變《かは》るに從《したが》つてこの紋樣《もんよう》もだん/\變《かは》つて行《ゆ》くのでありますが、漢《かん》の時代《じだい》の鏡《かゞみ》には、曲線《きよくせん》や直線《ちよくせん》をあつめた模樣《もよう》や、寫生的《しやせいてき》でない動物《どうぶつ》の形《かたち》などが現《あらは》れてをります。そこに竝《なら》べてある鏡《かゞみ》を御覽《ごらん》になればよくわかりますが、かような模樣《もよう》をつけた支那《しな》の鏡《かゞみ》は非常《ひじよう》によく出來《でき》てゐますのに、その頃《ころ》日本《につぽん》で出來《でき》た鏡《かゞみ》はまだ作《つく》り方《かた》が拙《まづ》いので、大《たい》へん見劣《みおと》りがいたします。例《たと》へば模樣《もよう》の中《なか》にある支那文字《しなもじ》でも、日本製《につぽんせい》の鏡《かゞみ》にはなんだかわか
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