摩《さつま》の方《ほう》に定《さだ》められてありますが、それは神代《しんだい》の御陵《ごりよう》でありますから今《いま》は申《まを》しません。次《つ》ぎに第一代《だいゝちだい》の神武天皇《じんむてんのう》の御陵《ごりよう》は、大和《やまと》の畝傍山《うねびやま》の麓《ふもと》にあることは皆《みな》さんも知《し》つてをられるとほりであります。しかし、この神武天皇《じんむてんのう》の御陵《ごりよう》は久《ひさ》しく荒《あ》れはてゝをつて、實《じつ》はその形《かたち》もよくわかりませんし、場所《ばしよ》についてもいろ/\の説《せつ》がありますが、とにかくあまり大《おほ》きくない圓《まる》い塚《つか》であつたと思《おも》はれます。それから六七代《ろくしちだい》ばかりの天皇《てんのう》の御陵《ごりよう》も大和《やまと》の南《みなみ》の方《ほう》にありますが、やはり圓《まる》い塚《つか》であつたらしいのです。第十代《だいじゆうだい》崇神天皇《すじんてんのう》と、次《つ》ぎの垂仁天皇《すいにんてんのう》の頃《ころ》から、前《まへ》が角《かく》で後《うしろ》の圓《まる》い前方後圓《ぜんぽうこうえん》の立派《りつぱ》な車塚《くるまづか》が、築《きづ》かれるようになつたことは疑《うたが》ひありません。その垂仁天皇《すいにんてんのう》の時《とき》に、あの野見宿禰《のみのすくね》が埴輪《はにわ》を造《つく》つたと傳《つた》へられてゐることは前《まへ》に申《まを》しました。それから降《くだ》つて景行天皇《けいこうてんのう》、成務天皇《せいむてんのう》また神功皇后《じんぐうこう/″\》の[#「神功皇后《じんぐうこう/″\》の」は底本では「神后皇后《じんぐうこう/″\》の」]御陵《ごりよう》などは、皆《みな》奈良《なら》の南《みなみ》あるひは西《にし》の方《ほう》にありまして、やはり大《おほ》きな前方後圓《ぜんぽうこうえん》の塚《つか》でありますが、仲哀天皇《ちゆうあいてんのう》、應神天皇《おうじんてんのう》に至《いた》つて、始《はじ》めて河内《かはち》の南方《なんぽう》に御陵《ごりよう》がつくられ、次《つ》ぎの仁徳天皇《にんとくてんのう》から三代《さんだい》ばかりは、昔《むかし》は河内《かはち》の國《くに》であつたが今《いま》の和泉《いづみ》の國《くに》の北方《ほつぽう》、堺《さかひ》の附近《ふきん》に御陵《ごりよう》が設《まう》けられることになりました。ところがこの應神《おうじん》、仁徳兩天皇《にんとくりようてんのう》の御陵《ごりよう》は、日本《につぽん》の御陵中《ごりようちゆう》でも一番《いちばん》大《おほ》きい立派《りつぱ》な前方後圓《ぜんぽうこうえん》の塚《つか》と申《まを》すべきで、なかにも仁徳天皇《にんとくてんのう》の御陵《ごりよう》の周圍《しゆうい》は約半里《やくはんり》くらゐもあり、世界中《せかいじゆう》にかような大《おほ》きな古墳《こふん》は、エヂプトのぴらみっと[#「ぴらみっと」に傍点]を除《のぞ》いてはあまりないかと思《おも》はれます。そしてこの御陵《ごりよう》のごときは、二重《ふたへ》に堀《ほり》をめぐらし、その周圍《しゆうい》には陪塚《ばいちよう》といつて臣下《しんか》の人《ひと》だちの墓《はか》がたくさん竝《なら》んでをります。遠《とほ》くから見《み》ますと小山《こやま》のようであり、近《ちか》くに行《ゆ》きますと大《おほ》きな松《まつ》の木《き》が御陵《ごりよう》のまはりに生《は》え茂《しげ》つて實《じつ》に神々《かう/″\》しく、參拜者《さんぱいしや》は誰《たれ》でもその威嚴《いげん》に打《う》たれるのであります。(第六十三圖《だいろくじゆうさんず》)
[#「第六十三圖 仁徳天皇百舌鳥耳原中陵」のキャプション付きの図(fig18371_64.png)入る]
 仁徳天皇《にんとくてんのう》の御陵《ごりよう》と、應神天皇《おうじんてんのう》の御陵《ごりよう》とは、その大《おほ》きさが優《すぐ》れてゐるばかりでなく、歴史上《れきしじよう》から見《み》ても最《もつと》もたしかなもので、これが標準《ひようじゆん》になつてわれ/\は、その頃《ころ》日本《につぽん》に前方後圓《ぜんぽうこうえん》の塚《つか》が盛《さか》んに行《おこな》はれ、そして埴輪《はにわ》が飾《かざ》られてをつたことなどを知《し》ることが出來《でき》るのであります。それゆゑ考古學《こうこがく》の上《うへ》からも最《もつと》も貴重《きちよう》な御陵《ごりよう》と申《まを》さなければなりません。
 それから六七代《ろくしちだい》の間《あひだ》、かの佛教《ぶつきよう》が日本《につぽん》にはひつて來《き》た時分《じぶん》、敏達天皇頃《びだつてんのうころ》[#ルビの「びだつて
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