ゐるのもあります。その名高《なだか》いものには埼玉縣《さいたまけん》の吉見《よしみ》の百穴《ひやくあな》といふのがあります。以前《いぜん》はこの横穴《よこあな》をば、人間《にんげん》が穴住居《あなずまゐ》をしてゐた跡《あと》だと考《かんが》へてをりましたが、やはり昔《むかし》の人《ひと》の墓場《はかば》なのです。それですからこの横穴《よこあな》は古墳《こふん》の石室《せきしつ》と同《おな》じ意味《いみ》のものでありまして、その作《つく》り方《かた》と大體《だいたい》[#ルビの「だいたい」は底本では「だいてい」]においてよく似《に》てをります。しかしたいていはそれほど大《おほ》きくはなく、四角《しかく》あるひは圓《まる》い部屋《へや》が一《ひと》つあるくらゐですが、時《とき》に珍《めづら》しいのになりますと、横穴《よこあな》の中《なか》に石棺《せきかん》が造《つく》つてあつたり、石《いし》の床《とこ》が三方《さんぽう》に設《まう》けて死體《したい》を置《お》くようになつてあつたり、天井《てんじよう》に家屋《かおく》の屋根《やね》をまねてあるのもあつたり、内部《ないぶ》に刀劍《とうけん》の形《かたち》を彫《ほ》つたものなどがあります。しかしまづそんなのは例外《れいがい》であつて、普通《ふつう》はなんの裝飾《そうしよく》もなく簡單《かんたん》な小《ちひ》さな穴《あな》に過《す》ぎません。(第六十一圖《だいろくじゆういちず》)
[#「第六十一圖 日本古墳横穴」のキャプション付きの図(fig18371_62.png)入る]
(ニ) 上古《じようこ》の帝陵《ていりよう》
今《いま》まで私《わたし》はわが國《くに》の古墳《こふん》の形《かたち》と構造《こうぞう》について述《の》べてまゐり、次《つ》ぎには古墳《こふん》から發見《はつけん》せられる、いろ/\の品物《しなもの》についてお話《はなし》をするつもりでありますが、その前《まへ》にごく古《ふる》い時代《じだい》の天皇樣《てんのうさま》の御陵《ごりよう》、すなはち『みさゝぎ』について、少《すこ》し申《まを》し上《あ》げたいと思《おも》ひます。
[#「第六十二圖 蒲生君平」のキャプション付きの図(fig18371_63.png)入る]
元來《がんらい》日本《につぽん》の古墳《こふん》の研究《けんきゆう》は、かの高山彦九郎《たかやまひこくろう》、林子平《はやししへい》などゝ共《とも》に寛政《かんせい》の三奇士《さんきし》といはれた蒲生君平《がまうくんぺい》が、御歴代《ごれきだい》の御陵《ごりよう》の壞《こは》れたり、わからなくなつてゐるのを歎《なげ》いて、自分《じぶん》で各地《かくち》の御陵《ごりよう》を探索《たんさく》し、遂《つひ》に『山陵志《さんりようし》』といふ本《ほん》を著《あらは》したりした頃《ころ》から、御陵《ごりよう》の研究《けんきゆう》につれて起《おこ》つたのでありました。そして明治《めいじ》の時代《じだい》になつて、いろ/\日本《につぽん》の學者《がくしや》が研究《けんきゆう》をはじめ、また大阪《おほさか》の造幣局《ぞうへいきよく》へ來《き》てをつた英國人《えいこくじん》のゴーランドといふ人《ひと》などが、やり出《だ》したのでありました。ところが古《ふる》い時代《じだい》の天皇《てんのう》の御陵《ごりよう》は、日本《につぽん》の古墳《こふん》のうちで最《もつと》も大《おほ》きく、また最《もつと》も立派《りつぱ》な代表的《だいひようてき》なものでありますから、古墳《こふん》を研究《けんきゆう》するには、ぜひこれらの御陵《ごりよう》を拜《をが》んで、それをよく調《しら》べなければならず、殊《こと》に古墳《こふん》の時代《じだい》を知《し》るには、御陵《ごりよう》が何《なに》よりの標準《ひようじゆん》となるのであります。私《わたし》なども少年《しようねん》のころ、御陵《ごりよう》を巡拜《じゆんぱい》するといふようなことから、つい/\考古學《こうこがく》に興味《きようみ》を覺《おぼ》えるようになつた次第《しだい》であります。
さて日本《につぽん》の上古《じようこ》から奈良朝《ならちよう》ごろまでの御陵《ごりよう》が、どういふ形《かたち》の塚《つか》から出來《でき》てゐるかといふことをお話《はな》しいたしませう。かの神代《かみよ》の三神《さんしん》、瓊瓊杵尊《にゝぎのみこと》、彦火火出見尊《ひこほほでみのみこと》それから※[#「顱のへん+鳥」、第3水準1−94−73]※[#「滋のつくり+鳥」、第3水準1−94−66]草茅葺不合尊《うがやふきあへずのみこと》の御陵《ごりよう》は、今日《こんにち》九州《きゆうしゆう》の南《みなみ》の日向《ひうが》、大隅《おほすみ》、薩
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