》(南《みなみ》に向《む》いたものが多《おほ》いのですが)に口《くち》を開《ひら》いてをり、前方後圓《ぜんぽうこうえん》の塚《つか》では、後《うしろ》の方《ほう》の圓《まる》い丘《をか》の横《よこ》に入《い》り口《ぐち》を開《ひら》いてゐるのが普通《ふつう》であります。この石室《せきしつ》の大《おほ》きさや形《かたち》は、いろ/\種類《しゆるい》がありますが、なかには綺麗《きれい》な切《き》り石《いし》で造《つく》つたものもありますし、また、さう手《て》を加《くは》へない重《おも》さ何噸《なんとん》といふほどの大《おほ》きな石《いし》を用《もち》ひて、造《つく》つたのも少《すくな》くはありません。この石室《せきしつ》の入《い》り口《ぐち》は一體《いつたい》に低《ひく》く狹《せま》くて、大人《おとな》が體《からだ》をかゞめてはひらねばならぬくらゐですが、内部《ないぶ》は廣《ひろ》くて天井《てんじよう》は人間《にんげん》の身長《しんちよう》よりも高《たか》いのが普通《ふつう》で、中《なか》には身長《しんちよう》の二倍《にばい》ぐらゐのものもあります。この石室《せきしつ》の作《つく》り方《かた》は西洋《せいよう》の『どるめん[#「どるめん」に傍点]』あるひは『石《いし》の廊下《ろうか》』といふものに非常《ひじよう》に似《に》てゐますけれども、日本《につぽん》のは西洋《せいよう》のものゝように古《ふる》いものではなく、また本當《ほんとう》の『どるめん[#「どるめん」に傍点]』といふほど簡單《かんたん》なものは、日本《につぽん》ではほとんど見當《みあた》りません。(第五十八《だいごじゆうはち》、九圖《くず》)
[#「第五十八圖 日本古墳石室」のキャプション付きの図(fig18371_59.png)入る]
[#「第五十九圖 日本古墳石室」のキャプション付きの図(fig18371_60.png)入る]
石室《せきしつ》の中《なか》には、たいてい石棺《せきかん》を一《ひと》つ入《い》れてありますが、また二《ふた》つ以上《いじよう》の石棺《せきかん》を入《い》れたのもあります。例《たと》へば河内《かはち》にある聖徳太子《しようとくたいし》の御墓《おはか》には、太子《たいし》の母后《ぼこう》と、太子《たいし》の妃《きさき》と三人《さんにん》の御棺《おかん》を容《い》れてあるとのことです。また中《なか》には死者《ししや》を石棺《せきかん》でなく木棺《もくかん》にいれて葬《はうむ》つた石室《せきしつ》も多《おほ》くあります。これは木棺《もくかん》はくさつてしまつても、それに使《つか》つた鐵《てつ》の釘《くぎ》などが殘《のこ》つてゐるのでわかります。元來《がんらい》以前《いぜん》は一《ひと》つの塚《つか》には一人《ひとり》しか葬《はうむ》らなかつたのが、この石室《せきしつ》を造《つく》る時代《じだい》になつてからは、一人《ひとり》だけを葬《はうむ》る場合《ばあひ》もありましたが、家族《かぞく》の者《もの》をも一《ひと》つの石室《せきしつ》に葬《はうむ》る風《ふう》が出來《でき》たかと思《おも》はれます。皆《みな》さんは、かような石《いし》の室《むろ》にはひつたことがありますか。大《おほ》きい石室《せきしつ》は奧行《おくゆ》きが十間近《じつけんちか》くもあり、室内《しつない》は眞暗《まつくら》ですから大《たい》そう氣味《きみ》の惡《わる》いものでありますが、蝋燭《ろうそく》を點《とも》したり、懷中電燈《かいちゆうでんとう》を携《たづさ》へて行《ゆ》きますと、内部《ないぶ》の模樣《もよう》がよくわかります。内部《ないぶ》は案外《あんがい》綺麗《きれい》でありますから、ちょっとこゝで住居《じゆうきよ》してもよいと思《おも》ふほどであります。道理《どうり》で時《とき》には乞食《こじき》などが、この石室《せきしつ》に住《す》んだりしてをります。冬《ふゆ》は暖《あたゝか》くて夏《なつ》は涼《すゞ》しいので、住居《じゆうきよ》には申《まを》し分《ぶん》がないといふことです。
[#「第六十圖 吉見[#「吉見」は底本では「横見」]百穴」のキャプション付きの図(fig18371_61.png)入る]
また古墳《こふん》の中《なか》には横穴《よこあな》といつて、山《やま》の崖《がけ》のようなところに、横《よこ》に穴《あな》をあけたのがあります。つまり塚《つか》をこしらへるのを儉約《けんやく》して、自然《しぜん》の崖《がけ》を利用《りよう》し、たゞ部屋《へや》だけを作《つく》つたものといふことが出來《でき》ます。これはたいてい一《ひと》つところに多《おほ》くの穴《あな》が群集《ぐんしゆう》して、なかには蜂《はち》の巣《す》のようにたくさんの横穴《よこあな》が遺《のこ》つて
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