供《そな》へ物《もの》をしたり、おまつりをするために、いろ/\のものが置《お》いてあつたに違《ちが》ひありませんが、それらの器物《きぶつ》は今日《こんにち》ではたいてい土《つち》に埋《うづ》もれて見《み》えなくなつたり、壞《こは》れてなくなつてしまつて、遺《のこ》つてゐるものは甚《はなは》だ少《すくな》いのであります。たゞ埴輪《はにわ》といつて、人《ひと》の像《ぞう》や動物《どうぶつ》の形《かたち》や壺《つぼ》の形《かたち》を土《つち》で造《つく》つたものが竝《なら》べてあつたことは、その殘《のこ》り物《もの》があるのでわかります。またこれらの墓《はか》の中《なか》には、死骸《しがい》をぢかに入《い》れたのではなく、石《いし》で造《つく》つた石棺《せきかん》だとか、石《いし》で造《つく》つた大《おほ》きい石《いし》の部屋《へや》が設《まう》けられて、その中《なか》に石棺《せきかん》あるひは木棺《もくかん》に、死骸《しがい》を納《をさ》めて葬《はうむ》られたのであります。私《わたし》はこれからまづ、墓《はか》の外《そと》にめぐらしてあつた、埴輪《はにわ》についてお話《はなし》をいたしまして、それから墓《はか》の中《なか》の石棺《せきかん》や、石《いし》の部屋《へや》のことに話《はなし》を進《すゝ》めませう。

      (ロ) 埴輪《はにわ》と石人《せきじん》

 さてお隣《とな》りの支那《しな》では、漢《かん》の時代頃《じだいころ》から後《のち》、墓《はか》の中《なか》に土《つち》で作《つく》つた人形《にんぎよう》や動物《どうぶつ》の像《ぞう》、その他《ほか》いろ/\の品物《しなもの》の形《かたち》を入《い》れ、また陵墓《りようぼ》の前《まへ》に石《いし》で造《つく》つた人間《にんげん》や動物《どうぶつ》の像《ぞう》を竝《なら》べて飾《かざ》りとすることが流行《はやり》だしましたが、日本《につぽん》でもまた古《ふる》く前方後圓《ぜんぽうこうえん》の古墳《こふん》が造《つく》られた時分《じぶん》には墓《はか》の前《まへ》などに、土《つち》で造《つく》つた人間《にんげん》や動物《どうぶつ》の像《ぞう》を竝《なら》べる習慣《しゆうかん》がありました。この土《つち》で造《つく》つた像《ぞう》を埴輪《はにわ》樹《た》て物《もの》と申《まを》します。昔《むかし》からの傳《つた》へによりますと、垂仁天皇《すいにんてんのう》の時《とき》に、天皇《てんのう》の御弟倭彦命《おんおとうとやまとひこのみこと》が薨去《こうきよ》になつた際《さい》、その頃《ころ》貴人《きじん》が死《し》ぬと、家臣《かしん》などが殉死《じゆんし》といつて、お伴《とも》に死《し》ぬ習慣《しゆうかん》がありましたので、多《おほ》くの家臣《かしん》が命《みこと》のお伴《とも》をして生《い》きながら墓場《はかば》に埋《うづ》められました。ところがなか/\死《し》に切《き》れないので、その悲《かな》しい泣《な》き聲《ごゑ》が、天皇《てんのう》の御殿《ごてん》にまで聞《きこ》えて來《き》ました。それで、天皇《てんのう》は殉死《じゆんし》の風俗《ふうぞく》は甚《はなは》だ人情《にんじよう》にそむいた殘酷《ざんこく》なことであるから、これはどうしてもやめなければならぬとお考《かんが》へになりました。その後《ご》數年《すうねん》を經《へ》て、皇后日葉酢媛命《こうごうひはすひめのみこと》が御崩御《ごほうぎよ》になりました時《とき》に、野見宿禰《のみのすくね》といふ者《もの》がありまして、天皇《てんのう》に今後《こんご》は土《つち》でもつて人間《にんげん》の像《ぞう》を作《つく》り、それを人間《にんげん》の代《かは》りに埋《うづ》めましたならば、古《ふる》くから傳《つた》はつてゐる風俗《ふうぞく》をも保存《ほぞん》し、また人間《にんげん》を生《い》き埋《うづ》めにするような、可愛《かわい》そうなことをなくすることが出來《でき》ると思《おも》ひますと申《まを》し上《あ》げましたので、天皇《てんのう》は、それは眞《まこと》によい思《おも》ひつきであると御賞《おほ》めになつて、それからは土《つち》で作《つく》つた人間《にんげん》などの像《ぞう》を墓《はか》の側《そば》に埋《うづ》めることになつたのだといふことです。元來《がんらい》墓《はか》の周圍《しゆうい》に、一《ひと》つは土《つち》が崩《くづ》れないように、もう一《ひと》つは飾《かざ》りのために、土《つち》で作《つく》つた筒形《つゝがた》の陶器《とうき》を竝《なら》べて埋《うづ》めるといふことは、その以前《いぜん》からもあつたように思《おも》はれますから、この野見宿禰《のみのすくね》のような人《ひと》は、支那《しな》で行《おこな》はれた石《いし
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