く、一《ひと》つ/\違《ちが》つてゐるのが普通《ふつう》でありますが、この時分《じぶん》には、まだ土器《どき》を燒《や》く窯《かまど》が知《し》られてゐなかつたと見《み》え、後《のち》の時代《じだい》のように綺麗《きれい》な色《いろ》に出來《でき》てをりません。素燒《すや》きでありますけれども、黒《くろ》ずんだ茶色《ちやいろ》で爐《ろ》に燻《いぶ》されたのが多《おほ》いのです。そしてその土《つち》の質《しつ》も細《こま》かい砂《すな》や、時《とき》には大粒《おほつぶ》の砂《すな》がまじつてゐるために平均《へいきん》してをりません。これら土器《どき》の形《かたち》は、その棚《たな》に竝《なら》べてあるように、非常《ひじよう》に種類《しゆるい》が多《おほ》いのでありまして、後《のち》の時代《じだい》や今日《こんにち》のものと比《くら》べて、かへって變化《へんか》が多樣《たよう》を極《きは》めてゐるのには寧《むし》ろ驚《おどろ》かされます。たゞ皿《さら》の類《るい》は餘《あま》り見當《みあた》りませんが、鉢《はち》、壺《つぼ》、土瓶《どびん》、急須《きゆうす》のたぐひから香爐型《こうろがた》のものなどがあつて、それに複雜《ふくざつ》な形《かたち》の取手《とつて》や、耳《みゝ》などがついてをり、模樣《もよう》はたいてい繩《なは》や莚《むしろ》の型《かた》を押《お》しつけその上《うへ》に曲線《きよくせん》で渦卷《うづま》きだとか、それに類似《るいじ》の模樣《もよう》がつけてありますが、時《とき》には突出《とつしゆつ》した帶《おび》のような裝飾《そうしよく》をつけたものもあります。ごく珍《めづら》しい例《れい》ではありますが、赤《あか》い繪《え》の具《ぐ》で塗《ぬ》つたものさへ見《み》かけられるのであります。しかし燒《や》き方《かた》はどれも軟《やはら》かい質《しつ》ですから、水《みづ》を入《い》れるとたいていは浸《し》み出《だ》します。それには當時《とうじ》の人《ひと》も定《さだ》めし困《こま》つたこともあらうと思《おも》はれますが、今日《こんにち》のように美《うつく》しい座敷《ざしき》があつて疊《たゝみ》の上《うへ》にゐるわけではなく、少《すこ》しぐらゐは水《みづ》がしみ出《だ》して濡《ぬ》れたとて、さう困《こま》るようなことはなかつたでせう。ところが、この土器《どき》を長《なが》く使用《しよう》してゐるうちに水垢《みづあか》がついたり、魚《さかな》や獸《けだもの》の脂《あぶら》がしみ込《こ》んだりして、そのために水氣《すいき》もしみ出《だ》さないようになりますので、當時《とうじ》はおそらく新《あたら》しい土器《どき》よりも使《つか》ひ古《ふる》された土器《どき》の方《ほう》が大切《たいせつ》がられたかも知《し》れません。(第四十二圖《だいしじゆうにず》)
 當時《とうじ》の土器《どき》の模樣《もよう》は、地方《ちほう》によつて多少《たしよう》の違《ちが》ひがありますし、また時代《じだい》によつても變《かは》つて來《き》たようですから、それらを調《しら》べて見《み》ることは面白《おもしろ》いのであります。同《おな》じ日本《につぽん》の石器時代《せつきじだい》の人々《ひと/″\》のお互《たがひ》の交通《こうつう》とか、文化《ぶんか》の關係《かんけい》などを知《し》るには、土器《どき》の模樣《もよう》や形《かたち》などを研究《けんきゆう》することが必要《ひつよう》であります。石器《せつき》は作《つく》り方《かた》やその形《かたち》もお互《たがひ》に似《に》てゐて、ほとんど世界中《せかいじゆう》、その變《かは》りは少《すくな》いのでありますから、文化《ぶんか》の關係《かんけい》その他《た》の研究《けんきゆう》には土器《どき》ほどに役立《やくだ》ちません。ですから私共《わたしども》は石器時代《せつきじだい》の遺蹟《いせき》に行《い》つても、土器《どき》を熱心《ねつしん》に採集《さいしゆう》し、小《ちひ》さい破片《はへん》でも見遁《みのが》さぬように注意《ちゆうい》してをります。
[#「第四十二圖 日本石器時代土器(繩紋式)」のキャプション付きの図(fig18371_43.png)入る]
 それから、土器《どき》と同《おな》じく粘土《ねんど》で作《つく》つたものに土偶《どぐう》といふものがあります。すなはち土《つち》の人形《にんぎよう》です。それはたいてい二三寸《にさんずん》から四五寸《しごすん》ぐらゐの大《おほ》きさのものが多《おほ》く、時《とき》には一尺以上《いつしやくいじよう》もあるのを見《み》かけますが、いづれも人間《にんげん》の形《かたち》そのまゝの寫生的《しやせいてき》のものでなくて、模樣風《もようふう》に一種《いつしゆ》の型《かた
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