》でも一番《いちばん》多《おほ》いものは貝《かひ》の腕輪《うでわ》であります。これはたいてい赤貝《あかがひ》の類《るい》の貝殼《かひがら》を刳《ゑぐ》り拔《ぬ》き、その周圍《しゆうい》ばかりを殘《のこ》して前腕《まへうで》にはめ込《こ》むでので[#「はめ込《こ》むでので」はママ]ありまして、石器時代《せつきじだい》の墓場《はかば》から出《で》る人骨《じんこつ》に、この貝輪《かひわ》がそのまゝ腕骨《わんこつ》にはまつてゐるのをたび/\發見《はつけん》されました。中《なか》には一方《いつぽう》の腕《うで》に七《なゝ》つ八《やつ》つも貝輪《かひわ》をはめてゐるのもありました。この貝輪《かひわ》を腕《うで》にはめる風俗《ふうぞく》は、今日《こんにち》でも南洋《なんよう》あたりの野蠻人《やばんじん》の間《あひだ》に多《おほ》く見受《みう》けられますが、たゞその貝輪《かひわ》はその刳《ゑぐ》り孔《あな》がわりあひに小《ちひ》さいので、掌《てのひら》を通《とほ》して前腕《まへうで》にはめることは餘程《よほど》困難《こんなん》であつたことゝ思《おも》はれます。今日《こんにち》私共《わたしども》が、その貝輪《かひわ》をとつて前腕《まへうで》にはめようとすると容易《ようい》にはまりませんが、これは今日《こんにち》でも南洋《なんよう》あたりにあるように、うまく氣合《きあひ》でもつて手《て》にはめ込《こ》む專門家《せんもんか》があつたかと思《おも》はれます。このついでに他《ほか》の裝飾品《そうしよくひん》について述《の》べますが、この時分《じぶん》の人《ひと》は耳《みゝ》にも石《いし》や土《つち》で作《つく》つた大《おほ》きな耳飾《みゝかざ》りをつけたのでした。それは石《いし》の環《かん》の一方《いつぽう》が缺《か》けたような形《かたち》のものや、鼓《つゞみ》の形《かたち》をした土製品《どせいひん》で、前《まへ》に申《まを》した石器時代《せつきじだい》の墓場《はかば》から、よく人骨《じんこつ》の耳《みゝ》のあたりで發見《はつけん》されるのであります。(第四十一圖《だいしじゆういちず》)

      (ニ) 土器《どき》と土偶《どぐう》

 日本《につぽん》の石器時代《せつきじだい》には土器《どき》が餘程《よほど》盛《さか》んに使用《しよう》されてゐましたと見《み》え、どの遺跡《いせき》にも多《おほ》くの土器《どき》が發見《はつけん》されます。私共《わたしども》が石器時代《せつきじだい》の遺蹟《いせき》を探《さが》すには、石器《せつき》に眼《め》をつけるよりも、田圃《たんぼ》の中《なか》に散《ち》らばつてゐる土器《どき》の破片《はへん》を見《み》つけることが一番《いちばん》の早道《はやみち》だと思《おも》はれるくらゐであります。この土器《どき》も石器《せつき》と同《おな》じように、あるひは石器《せつき》よりもより以上《いじよう》に、一度《いちど》破損《はそん》した場合《ばあひ》はとうてい修繕《しゆうぜん》が出來《でき》ない。もっとも時《とき》には大形《おほがた》の土器《どき》に罅《ひゞ》がはひつたり破《わ》れたりした時《とき》、兩側《りようがは》に孔《あな》をあけて紐《ひも》で縛《しば》りつけたものがないではありませんが、多《おほ》くは捨《す》てゝしまつたものと見《み》え、遺《のこ》つてゐる土器《どき》はたいてい破《わ》れ物《もの》であります。もっとも墓場《はかば》だとか、その他《ほか》の場所《ばしよ》に完全《かんぜん》な土器《どき》が埋《うづ》もれてゐることもありますが、私共《わたしども》の發見《はつけん》するのは多《おほ》くは破片《はへん》です。それは發掘《はつくつ》する時《とき》、壞《こは》れるのでなくて、たいてい元《もと》から壞《こは》れてゐるのであります。
 この當時《とうじ》の土器《どき》は、まだ完全《かんぜん》な轆轤《ろくろ》を使用《しよう》しなかつたのでありますが、そのわりあひに形《かたち》もよく整《とゝの》つて、歪《ゆが》んだものなどは甚《はなは》だ稀《まれ》であり、かなり巧《たく》みに造《つく》られてゐるように思《おも》はれます。それはおそらく平《ひら》たい籠《かご》のようなものゝ上《うへ》で、まはしながら作《つく》つたのでせう。その頃《ころ》にはすでに土器《どき》を造《つく》る專門《せんもん》の技術者《ぎじゆつしや》もゐたのでせうけれども、後《のち》の時代《じだい》のようにたくさんの土器《どき》を一時《いちじ》に製造《せいぞう》するようなことは少《すくな》かつたらしく、粗末《そまつ》な仕入《しい》れものと見《み》られるものは甚《はなは》だ稀《まれ》であります。それで形《かたち》や模樣《もよう》なども同《おな》じものが少《すくな》
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