く》しい緑色《みどりいろ》の石《いし》(硬玉《こうぎよく》)で造《つく》つたものが少《すくな》くありません。それらは當時《とうじ》支那《しな》から渡《わた》つた石材《せきざい》を取《と》り寄《よ》せて、つくつたものと思《おも》はれます。またこの美《うつく》しい楕圓形《だえんけい》の石《いし》の眞中《まんなか》に、穴《あな》のあるものなどもあります。これらはみな裝飾品《そうしよくひん》と思《おも》はれますが、果《はた》してどうして使《つか》つたものか、はっきりわかりません。かように、野蠻《やばん》な時代《じだい》でも美《うつく》しい石材《せきざい》を他《た》の地方《ちほう》から輸入《ゆにゆう》して使用《しよう》したことがあるばかりでなく、燧石《ひうちいし》だとか、黒曜石《こくようせき》のようなものでも、その地方《ちほう》に産《さん》しない場合《ばあひ》は、他《た》の地方《ちほう》からこれを輸入《ゆにゆう》して使《つか》つたのであります。私共《わたしども》は、この石《いし》の石質《せきしつ》を調《しら》べることによつて、當時《とうじ》の交通《こうつう》とか貿易《ぼうえき》の跡《あと》とかをたどることが出來《でき》るのでありますから、皆《みな》さんも石器時代《せつきじだい》の石《いし》の性質《せいしつ》を調査《ちようさ》することが必要《ひつよう》であります。(第四十一圖《だいしじゆういちず》)
[#「第四十一圖 日本石器時代装飾品」のキャプション付きの図(fig18371_42.png)入る]
 また石器時代《せつきじだい》といひましても、當時《とうじ》の人間《にんげん》が用《もち》ひてゐたものは、石器《せつき》ばかりではなく、他《た》の材料《ざいりよう》をもつて作《つく》つたものもないではありません。その主《おも》なるものは、かれ等《ら》が食物《しよくもつ》の材料《ざいりよう》として捕《とら》へた獸類《じゆうるい》の骨《ほね》や角《つの》で作《つく》つた物《もの》であります。まづ石器《せつき》と同《おな》じような刃物《はもの》の類《るい》をやはり骨《ほね》や角《つの》で作《つく》るのでありますが、もっともこれを作《つく》るには石器《せつき》を用《もち》ひたのでありませう。この骨《ほね》や角《つの》は石《いし》よりも軟《やはら》かいのでありますけれども、また一方《いつぽう》には石《いし》よりも強《つよ》くてをれ易《やす》くないといふことがその特長《とくちよう》であります。それがために物《もの》を突《つ》き刺《さ》したり孔《あな》をあける錐《きり》の類《るい》、ことに毛皮《けがは》だとか織《お》り物《もの》だとかを、縫《ぬ》つたり綴《つゞ》り合《あは》せたりするためには、石《いし》の錐《きり》は堅《かた》くてもをれ易《やす》くてだめ[#「だめ」に傍点]ですから、それにはどうしても、骨《ほね》や角《つの》でつくつた錐《きり》に限《かぎ》ると思《おも》はれます。また魚《さかな》を釣《つ》る時《とき》の釣《つ》り針《ばり》だとか、魚《さかな》を突《つ》き刺《さ》す時《とき》の銛《もり》にも、骨《ほね》や角《つの》で作《つく》つたものでなければ役《やく》に立《た》たないのでありまして、常陸《ひたち》の椎塚《すいつか》といふ貝塚《かひづか》からは、鯛《たひ》の頭《あたま》の骨《ほね》に、骨《ほね》で作《つく》つた銛《もり》がさゝつたまゝ發見《はつけん》せられたのがありました。これで骨製《こつせい》の器物《きぶつ》が漁業《ぎよぎよう》に用《もち》ひられたことを證據立《しようこだ》てゝをります。(第四十圖《だいしじゆうず》)
 しかしこの骨角器《こつかくき》は、當時《とうじ》においてはその數《すう》がたくさんあつたことでせうが、腐《くさ》り易《やす》いために石器《せつき》のように今日《こんにち》多《おほ》く遺《のこ》つてをりません。それから、これら骨角器《こつかくき》によつて獸《けだもの》の種類《しゆるい》を調《しら》べて見《み》ますと、たいてい猪《ゐのしゝ》と鹿《しか》のものであることがわかり、また貝塚《かひづか》から出《で》て來《く》る骨《ほね》や角《つの》の類《るい》を見《み》ても、やはり猪《ゐのしゝ》や鹿《しか》が主《おも》なるものであります。それから推《お》して石器時代《せつきじだい》の人間《にんげん》は貝《かひ》や魚《さかな》の他《ほか》に、主《おも》に猪《ゐのしゝ》だとか鹿《しか》だとかを狩《か》りして食料《しよくりよう》にしてゐたことが知《し》られます。
 また骨角器以外《こつかくきいがい》に貝殼《かひがら》で造《つく》つた器物《きぶつ》もないではありませんが、それは主《おも》に裝飾《そうしよく》に用《もち》ひられたもので、中《なか
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