ませんが、それも現在《げんざい》では何《なに》も遺《のこ》つてゐませんからわかりません。それゆゑ私共《わたしども》が貝塚《かひづか》を掘《ほ》つたり石器《せつき》の散《ち》らばつてゐる所《ところ》を掘《ほ》つてゐますと、その下《した》から石器時代《せつきじだい》の人間《にんげん》の骨《ほね》が出《で》て來《く》るので、初《はじ》めてそこが墓地《ぼち》であつたことが知《し》られるのであります。このような墓場《はかば》も今《いま》から十年前《じゆうねんぜん》まではよくわからなかつたのでありますが、だん/″\わかつて來《き》て各地《かくち》において續々《ぞく/\》發見《はつけん》されてまゐりました。陸前松島《りくぜんまつしま》の宮戸島《みやとじま》だとか、三河《みかは》の吉胡《よしこ》だとか、河内《かはち》の國府《こふ》だとか、備中《びつちゆう》の津雲《つぐも》だとか、肥後《ひご》の阿高《あこう》などでは、ずいぶんたくさん人間《にんげん》の骨《ほね》が出《で》て、ある一《ひと》つの場所《ばしよ》からは百體《ひやくたい》三百體以上《さんびやくたいいじよう》の骨《ほね》が、一間《いつけん》ほどの距離《きより》を置《お》いて竝《なら》んでゐるといふようなあり樣《さま》であります。石器時代《せつきじだい》の墓場《はかば》があり/\とこの世《よ》の中《なか》に現《あらは》れたわけで、發掘《はつくつ》に行《い》つた私共《わたしども》も實《じつ》に驚《おどろ》いたものでした。そして、それらの人間《にんげん》の骨《ほね》はほとんど完全《かんぜん》に、指先《ゆびさき》の骨《ほね》まで遺《のこ》つてゐる場合《ばあひ》がすくなくないのであります。かへって後《のち》の時代《じだい》の大《おほ》きな古墳《こふん》で、石棺《せきかん》の中《なか》に入《い》れた人間《にんげん》は骨《ほね》まで腐《くさ》つてゐるのが普通《ふつう》でありますのに、この棺桶《かんをけ》もなく土中《どちゆう》に埋《うづ》めた人間《にんげん》の骨《ほね》が、よく遺《のこ》つてゐるのは一見《いつけん》不思議《ふしぎ》に感《かん》ぜられますが、それは棺《かん》の中《なか》は空氣《くうき》が侵入《しんにゆう》して腐《くさ》り易《やす》いが、直接《ちよくせつ》に土中《どちゆう》に埋《うづ》める時《とき》は空氣《くうき》が入《い》り難《にく》いので、かへってよく保存《ほぞん》されるのであります。
[#「第三十七圖 日本石器時代遺跡」のキャプション付きの図(fig18371_38.png)入る]
この石器時代《せつきじだい》の人間《にんげん》は、どういふふうにして葬《はうむ》つたかといふに、足《あし》をまげて膝《ひざ》を體《からだ》に着《つ》け、跪《ひざまづ》いたような形《かたち》をして埋《うづ》めたのが普通《ふつう》でありまして、體《からだ》を伸《の》ばして埋《うづ》めたのは至《いた》つて稀《まれ》です。中《なか》には胸《むね》のあたりに大《おほ》きい石《いし》を置《お》いたものもあります。この體《からだ》をまげて葬《はうむ》るのは日本《につぽん》ばかりでなく、ヨーロッパでも石器時代《せつきじだい》に行《おこな》はれてをりますし、今日《こんにち》の野蠻人《やばんじん》の中《なか》にもまたそれが見出《みいだ》されますが、それは多分《たぶん》死《し》んだ者《もの》が再《ふたゝ》び生《い》き返《かへ》つて來《き》て、その靈魂《れいこん》が生《い》きてゐる人間《にんげん》に惡《わ》るいことをしないために、足部《そくぶ》をまげて縛《しば》るといふことがあつたものと考《かんが》へられるのであります。また石器時代《せつきじだい》のごときまだ開《ひら》けない時代《じだい》でも、親子《おやこ》の情愛《じようあい》といふものは今日《こんにち》と變《かは》りはなかつたのですから、幼兒《ようじ》の死體《したい》でもけっして捨《す》てゝはありません。赤子《あかご》や兒童《じどう》の死體《したい》は、大《おほ》きい土器《どき》の壺《つぼ》に入《い》れて特別《とくべつ》に葬《はうむ》つてある場合《ばあひ》が多《おほ》いのです。また松島《まつしま》では、老母《ろうぼ》と少女《しようじよ》とが抱《だ》き合《あは》せて葬《はうむ》つてありましたが、これは定《さだ》めし祖母《そぼ》と孫娘《まごむすめ》とが同時《どうじ》に病死《びようし》したものを葬《はうむ》つたものと思《おも》はれます。そしてその少女《しようじよ》の頸《くび》には小《ちひ》さい石《いし》の玉《たま》を珠數《じゆず》にして飾《かざ》つてありました。なんといぢらしいことではありませんか。
私共《わたしども》は、かような墓地《ぼち》を發掘《はつくつ》して、その時分《じぶ
前へ
次へ
全73ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜田 青陵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング