、クリート嶋《とう》にあつたギリシア以前《いぜん》の非常《ひじよう》に進《すゝ》んだ文明《ぶんめい》も、皆《みな》青銅《せいどう》の時代《じだい》に屬《ぞく》してゐることを忘《わす》れてはなりません。そしてこの青銅器《せいどうき》から鐵器《てつき》の時代《じだい》における文明《ぶんめい》の話《はなし》になりますと、皆《みな》その國々《くに/″\》によつて皆《みな》異《こと》なつた形《かたち》で現《あらは》れてをりまして、もう歴史以後《れきしいご》の時代《じだい》に入《い》りますので、それらの時代《じだい》に出來《でき》た品々《しな/″\》を悉《こと/″\》くこの博物館《はくぶつかん》に竝《なら》べることはとうてい出來《でき》ません。それはまた別《べつ》の博物館《はくぶつかん》に陳列《ちんれつ》してありますから、皆《みな》さんはそこに行《い》つて見《み》て下《くだ》さい。
 それで、私共《わたしども》は、これから西洋《せいよう》やその他《た》外國《がいこく》のものはこれだけにして、日本《につぽん》で出《で》た石器時代《せつきじだい》からの古《ふる》い品物《しなもの》を見《み》に行《ゆ》くことにいたしませう。しかしちょっとお庭《には》へ出《で》て、私《わたし》はたばこ[#「たばこ」に傍点]を一《いつ》ぷくのみ、皆《みな》さんも一休《ひとやす》みといたしませう。
[#改丁]

第三、考古博物館の卷(下)
[#改丁]

     一、日本先史時代室《につぽんせんしじだいしつ》

      (イ) 日本《につぽん》の石器時代《せつきじだい》

 さぁこれからは西洋《せいよう》の品物《しなもの》でなく、私《わたし》どもの生《うま》れた日本《につぽん》の國《くに》の古《ふる》い時代《じだい》の品物《しなもの》を見《み》、そのお話《はなし》をするのです。ところが今《いま》まで述《の》べましたような石器時代《せつきじだい》からだん/″\金屬器《きんぞくき》の時代《じだい》に、人類《じんるい》の進歩《しんぽ》して行《い》つた順序《じゆんじよ》は、日本《につぽん》においても西洋《せいよう》と同《おな》じようになつてゐるのです。けれども、初《はじ》めに話《はな》しました一《いち》ばん古《ふる》い舊石器時代《きゆうせつきじだい》といふ時代《じだい》は、日本《につぽん》にもあつたかも知《し》れないが、今日《こんにち》までその遺物《いぶつ》が少《すこ》しも見《み》つかつてをりません。それゆゑ今《いま》までのところでは、日本《につぽん》で一番《いちばん》古《ふる》いのは、新石器時代《しんせつきじだい》のものでありまして、それから金屬器《きんぞくき》の時代《じだい》につゞいてゐるのであります。
 さて日本《につぽん》はいつ頃《ごろ》まで石器時代《せつきじだい》であつたかと申《まを》しますに、よくはわかりませんが、少《すくな》くとも今《いま》から二千年程前《にせんねんほどまへ》まで石器《せつき》の使用《しよう》が殘《のこ》つてゐたようであります。そして、その前《まへ》の千年間《せんねんかん》ぐらゐも石器時代《せつきじだい》であつたかと思《おも》はれますけれども、そのへんのことになると、殘念《ざんねん》ながら年數《ねんすう》を明《あきら》かにすることが出來《でき》ません。
 日本《につぽん》でも昔《むかし》から百姓《ひやくしよう》が土地《とち》を耕《たがや》したり、山《やま》が崩《くづ》れたりした時《とき》、ひょっこり石器《せつき》の發見《はつけん》されたことが屡々《しば/\》ありましたが、昔《むかし》はそれらの石器《せつき》を人間《にんげん》が造《つく》つたものとは思《おも》はないで、石《いし》の斧《をの》を見《み》て雷神《らいじん》が落《おと》したものであるとか、あるひは石《いし》の矢《や》の根《ね》を見《み》ては神樣《かみさま》が戰爭《せんそう》した時《とき》の矢《や》であると考《かんが》へたり、あるひは自然《しぜん》に出來《でき》たものであると信《しん》じたりしてゐました。
[#「第三十四圖 木内石亭翁」のキャプション付きの図(fig18371_35.png)入る]
 もっともかように考《かんが》へたのは日本《につぽん》ばかりでなく、西洋《せいよう》でも支那《しな》でも昔《むかし》はみな同《おな》じように思《おも》つてゐたのでありました。またこの不思議《ふしぎ》な石《いし》をよせ集《あつ》める物好《ものず》きな人《ひと》があつて、中《なか》にずいぶんたくさん集《あつ》めた人《ひと》もありました。中《なか》にも有名《ゆうめい》なのは、今《いま》から百年《ひやくねん》ばかり前《まへ》に、近江《あふみ》に木内石亭《きのうちせきてい》といふ人《ひと》で、これらの
前へ 次へ
全73ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜田 青陵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング