人達《ひとたち》も多《おほ》く集《あつ》めてゐる間《あひだ》に、これは天狗《てんぐ》の使《つか》つたものだとか神樣《かみさま》のものとかではなくて、人間《にんげん》が昔《むかし》使用《しよう》したものであらうと考《かんが》へ出《だ》して來《き》ました。また新井白石《あらゐはくせき》のような偉《えら》い學者《がくしや》は、これは昔《むかし》北海道《ほつかいどう》から樺太《からふと》に棲《す》んでゐた肅愼《しゆくしん》といふ民族《みんぞく》が使用《しよう》したものであらうと考《かんが》へ、百年《ひやくねん》ほど前《まへ》に日本《につぽん》へ來《き》たシーボルドといふ西洋人《せいようじん》は、これは昔《むかし》のアイヌ人《じん》が使《つか》つたものだらうといつてをりました。
[#「第三十五圖 モールス先生」のキャプション付きの図(fig18371_36.png)入る]
しかし、この石器《せつき》が人間《にんげん》の使《つか》つたものであり、また、かような石器《せつき》を使《つか》つた人間《にんげん》が日本《につぽん》のこゝかしこにも棲《す》んでゐたといふことを、現場《げんじよう》を掘《ほ》つて研究《けんきゆう》し、本當《ほんとう》によくわかつて來《き》たのは新《あたら》しいことであります。それは今《いま》から五十年程前《ごじゆうねんほどまへ》に、アメリカから日本《につぽん》の大學《だいがく》の教授《きようじゆ》になつて來《き》たモールスといふ先生《せんせい》が、初《はじ》めてわれ/\に教《をし》へてくれたのであります。この先生《せんせい》は動物學者《どうぶつがくしや》でありまして、日本《につぽん》へ來《く》る前《まへ》に、アメリカのフロリダといふ所《ところ》で石器時代《せつきじだい》の貝塚《かひづか》を掘《ほ》つた經驗《けいけん》があり、その方面《ほうめん》の學問《がくもん》にも詳《くは》しい人《ひと》でありました。明治十二年《めいじじゆうにねん》に船《ふね》で横濱《よこはま》に着《つ》きまして、その頃《ころ》出來《でき》てゐました汽車《きしや》で東京《とうきよう》へ行《ゆ》く途中《とちゆう》、汽車《きしや》の窓《まど》からそこら邊《へん》の風景《ふうけい》を眺《なが》めてをりました。ところが大森驛《おほもりえき》[#ルビの「おほもりえき」は底本では「おはもりえき」]の附近《ふきん》において線路《せんろ》の上《うへ》に白《しろ》い貝殼《かひがら》が多《おほ》く散亂《さんらん》してゐるのを見《み》つけまして、これはきっと石器時代《せつきじだい》の貝塚《かひづか》があるのに違《ちが》いないと思《おも》ひ、それから間《ま》もなくこの大森《おほもり》へ發掘《はつくつ》に出《で》かけました。果《はた》してそれは貝塚《かひづか》でありまして、石器《せつき》や土器《どき》が多數《たすう》に出《で》て來《き》たのです。これが日本《につぽん》において貝塚《かひづか》を研究《けんきゆう》するために發掘《はつくつ》した最初《さいしよ》であります。モールス先生《せんせい》は、三四年前《さんよねんぜん》アメリカで亡《な》くなられましたが、近頃《ちかごろ》この大森《おほもり》に先生《せんせい》の記念碑《きねんひ》が建《た》てられました。このモールス先生《せんせい》の弟子達《でしたち》や、またその後《ご》に出《で》て來《き》た學者達《がくしやたち》が、熱心《ねつしん》に東京附近《とうきようふきん》の貝塚《かひづか》を調査《ちようさ》いたしまして、石器時代《せつきじだい》の事柄《ことがら》を研究《けんきゆう》したのでありますが、中《なか》でも今《いま》から十數年前《じゆうすうねんまへ》に歿《ぼつ》せられました、東京帝國大學《とうきようていこくだいがく》の教授《きようじゆ》であつた坪井正五郎博士《つぼゐしようごろうはかせ》は、最《もつと》も熱心《ねつしん》に研究《けんきゆう》されたのであります。私《わたし》なども中學生《ちゆうがくせい》の時分《じぶん》から、坪井先生《つぼゐせんせい》の教《をし》へを受《う》け、それから一《いつ》そうこの學問《がくもん》が好《す》きになつたのであります。
[#「第三十六圖 坪井正五郎先生」のキャプション付きの図(fig18371_37.png)入る]
今日《こんにち》では日本全國《につぽんぜんこく》の到《いた》る處《ところ》、北《きた》は樺太《からふと》北海道《ほつかいどう》から本州全體《ほんしゆうぜんたい》四國《しこく》九州《きゆうしゆう》、西《にし》は朝鮮《ちようせん》、南《みなみ》は臺灣《たいわん》まで、どこでも石器時代《せつきじだい》の遺蹟《いせき》の發見《はつけん》されぬところはありません。そして三千年《さんぜんねん》五
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