四 那覇の波上宮と護國寺

 那覇の市中には市役所の高塔が、最初の且つ唯一(?)の鐵筋混凝土のモダン建築として立つてゐる外には、商家(媼家は例外)の殆ど全部は皆赤味がゝつた重い本瓦葺の屋根を頂いた平屋である點に於いて、聊か朝鮮の都邑を思はせるものがある。併し市中の小川に石造の太鼓橋(泉橋)が架つてゐる處は、多少支那的の氣分を現はしてゐる。そして此の橋際に大きな日傘を立てゝ、其の下に老婆が物を賣つてゐる處は、如何にも繪になりさうな景色である。聖廟なるものも丁度この橋の邊にあつて、深緑の木立の間に赤塗りの建物を隱見せしめてゐるが、土塀の中へ這入つて廟内を拜見すると、規模は小さいが全く支那の孔子廟の縮圖に外ならない。之に隣つた明倫堂には昔ながらの番人の久米の人々が長閑に烏鷺を戰はしてござる。
 波上《なんみん》宮へお參りをすると、これは明の詩人が筍崖と呼んだ港の外に突出した珊瑚礁の塊の上に立つてゐる沖繩縣内唯一の官幣社である。夏の夕べ凉風を納れるには、如何にも具合の佳ささうな形勝の地であるが、四百年前の創建に關らむ社殿は極く新しく何の見所もない。併し社務所へ案内せられて、宮司さんから泡
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