とした。併し大親は中々之を承知しないので、王はそれでは其の望む所のものを何でも與へようと云ふと、それでは此の城嶽から見渡されるだけの土地を賜はれと答へて、それを頂戴したと傳説にあるのは、如何にも此の眺望の好い地形に應はしい話である。
 芝生に被はれた珊瑚礁の上には薄い土壤があつて、細い貝殼が處々に見えるばかりで、土器の破片などは殆んど見付からない。況んや樺山君とやらが、數年前掘り出した明刀錢の如き學界を聳動した珍物や、某君の拾はれたと云ふ石鏃の如きは、蝙蝠傘の先きでツツいた位では飛び出しさうもなかつたが、私には此の丘の上にある龜甲形の、琉球式の墓を見ただけでも面白い獲物であつた。
 この城嶽のあたりにはハブが澤山居ると云ふが、此の冬の季節では姿を見せないとのことに、大に安心したものゝ、それでは琉球へ來て琉球名物のハブにお目にかゝらずしてしまふのは殘念であると云ふと、それでは血清を採る爲め縣廳に飼つてある奴を御覽になつてはとの事に、早速行つて見ると、大分弱つては居るが、棒でさはると鎌首を立てゝ攻撃の姿勢に出る處は如何にも物凄く、この蛇だけは夢に出られても御免を蒙り度い。

       
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