、それでは折角料理に念を入れても一向張合がないと言はれた。成程さうかも知れぬ。何しろ斯う言ふ手合であるから、料理に關する事を「洛味」に書けと言はれても、一向持合せの材料がないので困つてしまふ。併し度々の御催促であるから、今日は異國で經驗した食物の話を少し思ひ出し、しぼり出して書いて見よう。
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朝鮮の扶餘へ行つた時、洛東江に産する川幸を色々と食べさせられた。中にも「カムルチ」と言ふ魚の刺身は、其の身が眞白で美くしく、頗る味覺をそゝつたが、何分洛東江の魚にはヂストマがゐると聞いてゐるので、此處では生ま物を食はぬ決心をして、同行の東伏見伯にも左樣に申して居たのであるが、星島家令が遂に其の禁を破られたので、若しも病氣になつたら星島君獨りでは氣の毒と、皆んな破戒無殘の身となつてしまつた。ムツチリとした味で、仲々他の魚には見られない味である。それから二年以上も經つて、誰れも發病せぬのですつかり安心をしてしまひ、昨年再び同地へ行つた時には自分で注文して之を賞味したことである。カムルチ[#「カムルチ」は底本では「カルムチ」]は蛇の樣な形をしてゐるとの事であるが、宿屋の主人の
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