窿~ケーネ發見の人面土器などを模樣に現はし、天井の壁畫には二三の天使が、發掘を助けてゐる處を描いてある。夫人は之を指して「あれは娘、これは息子」と、其の肖像を寫してあるのだと説明せられた。そして我々を別室に誘つて懇篤なる茶菓を饗せられ、クリート島から歸つて來たならば、再び訪問せよと契つて戸口まで送られたが、我々は遂に其の約を果すことが出來ず、希臘内地の旅行に上つてしまつたのであつた。
三
私は日本へ歸つてから『希臘紀行』の小著を世に公にしたが、その一部を夫人に贈呈することを忘れなかつた。すると夫人はやがて懇篤なる謝辭を以て答へられた。而かも手紙の最後にソフイヤ・シュリーマンと署して、其の下に不思議な文字を以て一行記されてゐるのは、楔状文字でもなく、又何處の文字とも一向分らず、私に久しく謎として殘つて居つたが、數年前之を或る人に示すと、其の人は横の方に坐つて居つたが、「是は日本の片假名ではないか」と云はれて見れば、如何にもそれに違ひなく、夫人は「ソフイヤ・シュリーマン」の片假名を横に書かれたのであつて、私は愚にも其の時まで氣がつかなかつたのである。誰か日本人が之
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