、ぶっつかる火の風
はじける火の粉の闇で
金いろの子供の瞳
燃える体
灼《や》ける咽喉《のど》
どっと崩折《くずお》れて

めりこんで

おお もう
すすめぬ
暗いひとりの底
こめかみの轟音が急に遠のき
ああ
どうしたこと
どうしてわたしは
道ばたのこんなところで
おまえからもはなれ
し、死な
ねば

らぬ

[#改ページ]

  炎

衝《つ》き当った天蓋《てんがい》の
まくれ拡がった死被《しひ》の
垂れこめた雲の
薄闇の地上から
煙をはねのけ
歯がみし
おどりあがり
合体して
黒い あかい 蒼《あお》い炎は
煌《きらめ》く火の粉を吹き散らしながら
いまや全市のうえに
立ちあがった。

藻《も》のように ゆれゆれ
つきすすむ炎の群列。
屠殺場《とさつじょう》へ曳《ひ》かれていた牛の群は
河岸をなだれ墜《お》ち
灰いろの鳩が一羽
羽根をちぢめて橋のうえにころがる。
ぴょこ ぴょこ
噴煙のしたから這い出て
火にのまれゆくのは
四足の
無数の人間。
噴き崩れた余燼《よじん》のかさなりに
髪をかきむしったまま
硬直《こうちょく》した
呪いが燻《くすぶ》る

濃縮《のうしゅく》され

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