やがて土木会社の拡張工事の土砂に埋まり
その小さな手や
頚の骨を埋めた場所は
何かの下になって
永久にわからなくなる
「斉美小学校戦災児童の霊」
花筒に花はなくとも
蝶が二羽おっかけっこをし
くろい木目に
風は海から吹き
あの日の朝のように
空はまだ 輝くあおさ
君たちよ出てこないか
やわらかい腕を交み
起き上ってこないか
お婆ちゃんは
おまつりみたいな平和祭になんかゆくものかと
いまもおまえのことを待ち
おじいさまは
むくげの木蔭に
こっそりおまえの古靴をかくしている
仆《たお》れた母親の乳房にしゃぶりついて
生き残ったあの日の子供も
もう六つ
どろぼうをして
こじきをして
雨の道路をうろついた
君たちの友達も
もうくろぐろと陽に焼けて
おとなに負けぬ腕っぷしをもった
負けるものか
まけるものかと
朝鮮のお友だちは
炎天の広島駅で
戦争にさせないための署名をあつめ
負けるものか
まけるものかと
日本の子供たちは
靴磨きの道具をすて
ほんとうのことを書いた新聞を売る
君たちよ
もういい だまっているのはいい
戦争をおこそうとするおとなたちと
世界中でたたかうために
その
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