った
そして見まねで水槽につかり
いちじくの葉っぱを顔にのせ
なんにもわからぬそのままに
死んでいった
きみたちよ
リンゴも匂わない
アメダマもしゃぶれない
とおいところへいってしまった君たち
〈ほしがりません……
かつまでは〉といわせたのは
いったいだれだったのだ!
「斉美小学校戦災児童の霊」
だまって立っている君たちの
その不思議そうな瞳に
にいさんや父さんがしがみつかされていた野砲が
赤錆びてころがり
クローバの窪みで
外国の兵隊と女のひとが
ねそべっているのが見えるこの道の角
向うの原っぱに
高くあたらしい塀をめぐらした拘置所の方へ
戦争をすまい、といったからだという人たちが
きょうもつながれてゆくこの道の角
ほんとうに なんと不思議なこと
君たちの兎のような耳に
そぎ屋根の軒から
雑音まじりのラジオが
どこに何百トンの爆弾を落したとか
原爆製造の予算が何億ドルにふやされたとか
増援軍が朝鮮に上陸するとか
とくとくとニュースをながすのがきこえ
青くさい鉄道草の根から
錆びた釘さえ
ひろわれ買われ
ああ 君たちは 片づけられ
忘れられる
かろうじてのこされた一本の標柱も
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