環礁《かんしょう》が噴きあげた
何万トンかの海水を映したのは
豚・
羊・
猿・
実験動物たちの
きょとんとした目・目・目だ)
[#ここで字下げ終わり]

日が焼けつく、
雨が滲み入る、
ひろいひろい瓦礫の三里四方
白骨と煉瓦屑をならして
たしかに
三尺ばかり
高くなったヒロシマ。
死者 二四七、〇〇〇。
行方不明 一四、〇〇〇。
負傷 三八、〇〇〇。
原爆遺跡ちんれつ所にころがる
灼《や》けた石、
溶《と》けた瓦、
へしゃがれたガラスビン、
そして埃をかぶった
観光ホテルの都市計画パンフ。

しかし
一九五一年
きょうも燃えあがる雲。
それをかすめ
ふわりと浮遊する
たしかにあれは 白点二つ、
あ・あれだ!
地球の裏から無線でひもをつけた
原爆効果測定器の落下傘。
おれたち
ヒロシマ族の網膜から
消えることのない
あのあさの
らっかさんが
ふうわりと
雲のかげで
あそんでいる。
[#改ページ]

  ちいさい子

ちいさい子かわいい子
おまえはいったいどこにいるのか
ふと躓《つまず》いた石のように
あの晴れた朝わかれたまま
みひらいた眼のまえに
母さんがいない
くっきりと空を映すおまえ
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