もう世間から追い出しをくった者のような気がして、さっきはなしたことを思い出しながら私自身かなしくなりました。
病院の帰りに、古いジャケットを売って三百円得ました。それで私はコーヒをのみ、インキと便箋を買い、残りの百円で映画でもみようとにぎやかな街に出ました。と、そこに、信二郎の後姿をみました。三十五六のやせ型の美しい奥さんと一しょです。まっぴるま、学校へは行かないで。私は不安な気持になりました。いつになくズボンの折目をただすために寐押しをしていた昨夜の信二郎の姿を思い出します。私はその後を三十|米《メートル》もつけてあるきましたが、ふと横筋にそれるとそこの袋小路で長い間ただつったっておりました。信二郎は一体どんな気持でいるのでしょうか。
信二郎は小さい時から気立てのやさしい素直な子でした。体が弱く一年のうち寐ている方が多いようでした。自然、外へ出て近所の子供達とあそぶような事はなく、家の中で本をよんだり縁側でカナリヤの世話をしたりすることを好んでおりました。他所の人がよく勝気な私と比べて、信二郎と私といれちがっておればよかったと申しました。顔立ちもおとなしく、今でも餅のような肌をし
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