した。
「兄様、父様に輸血をしたの」
「父様随分おわるいの?」
「そんなでもないのよ、いつもの如くなの。雪子の五百円也の血……、ふふ」
私は白いお皿を思い出して笑いました。
「五百円って?」
「売ったのよ、血を……」
「え、お前、父様に? そして五百円受けとったの?」
「いけない? 雪子、それみな使ったわ、今度ん時は兄様、モツァルトのレコード買ったげるわね」
「親子じゃないか、しようのないひとだ」
話はとぎれます。私はサンダーボックスのふたをあけて、兄の好きなというより、もう心酔してしまっているモツァルトのものをかけ出しました。ニ長調のロンドです。兄は白い敷布の上に長く寐て目をつむりながらきいております。
「ねえ、信二郎さんがジャズバンドのアルバイトやりたいって、雪子に昨夜云ったんだけど、兄様、どうお思いになる?」
「信二郎が、あれ勉強してるのかい、夜稼ぐのじゃ大変じゃないか、おそく迄なんだろう」
「でも土曜日曜らしいことよ。それも、きまってあるのじゃなくて……」
「僕のように体をこわしちゃつまらないからな、で何をやるの」
「スティールギター。借りるんだって? で一二回やれば自分の
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