たった一つの共通した点でありました。戦争の始まるもっと前、父は私を連れて、京都の古物屋へよく行きました。そして、茶碗や、壺、鉄びんなどを買って来て、二階の父の部屋に並べました。日本に二つしかないという鶏冠壺は、それ等のなかで、一番大事にしておりましたけれど、戦火の下に、やはり他のものと一しょになくなっておりました。しばらくの間、失った子供をなつかしむように、私は数々の品を一つずつ目の前にうかべて、回想にふけっておりました。
急にジャズが、やかましく鳴り出しました。とすぐ、ぷっつりきれて静寂にかえりました。
「そら、しかられた。馬鹿ね、信二郎さん」
いつの間にか、隣の部屋へ出て行った信二郎を、私は軽く叱りました。父が苦しそうに、それでもかなりの大きい声を出して怒っております。
「ふん、ジャズもわからないのか。全く、家にいるのは、ゆううつさ。面白くもねえ、姉様だってアプレの癖に……」
「こんな老嬢もやはりアプレのうちなのね」
「来年から年一つ若くなるんだよ。だけど、麻雀やカードは話せるなあ」
私は賭事、勝負事は三度の御飯より好きなのです。私は夢中になって勝とうと致します。その間は、他
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