。けれども赤襷をかけて戦争中出征致しました。御影石の台だけが、お寺のある山にのこっております。雨のふる中を誦経しながら銅像をひきおろしたことを思い出しておかしくなったのです。
家へ戻って食事をしていると東さんがやって来ました。店に坐っている時は着流しで、真綿のちゃんちゃんこをきていましたが、玄関でみた彼は、うすっぺらの背広をきていてネクタイがゆがんでおります。おしゃれをして来たのかもしれませんが、東さんは断然、あの着流しがいいのに。
「どうぞ、父もお会いするでしょうから」
私は父の部屋に東さんを招じ入れ、いそいで食事を済ませると、お茶を持ってふたたび彼等のところへ行きました。品物をならべます。父と東さんはそれ等をみております。父は心細そうで、
「惜しいな」
と時々申します。東さんは、一つ一つをゆっくり観察しました。
「全部で二万三千円」
東さんはそう云いました。私も父も少なくとも三万円にはなると思っていたのです。私は、病のため剃ることも出来ないで白くのびた父のひげのあたりをみておりました。父も私の顔をみます。
「だって東さん、これ価値ものよ、茶碗だって、あんたんとこのあれよりず
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